ダ・ヴィンチ・コード

2006 角川書店 ダン・ブラウン, 越前 敏弥

 

深夜、ハーバード大学の宗教象徴学教授であるロバート・ラングドンの下は、フランス警察に起こされる。ルーブル美術館に同行し、美術館館長ジャック・ソニエールの奇怪な遺体に遭遇する。そこには謎のメッセージが残されていた。ソニエールは何を伝えようとしていたのか?太古からの秘匿されてきたキリストの謎にせまるミステリー。

常に謎が物語を引っ張り、すらすらと読める。実在しただろう使徒の人間的一面には興味を引かれる。半分くらいは真実であってほしいなぁ。ストーリーとは関係ないけど、あとがきの奥様への賛辞が一番印象に残ったww

現代アフリカ入門

1991 岩波書店 勝俣 誠

 

現代アフリカを解説した書籍。植民地vs独立vs連邦制化、社会主義vsイスラーム主義vs民主主義、汚職vs援助vs貧困、農業vs工業。大きな流れをさらっている。

文章は分かりやすかったが、構成がもう少し工夫できたら、頭の悪い私でも整理しやすかったかもしれない。全体としては一本筋が通っていて、良い印象を持った。

アフリカは人類の故郷であり、民族的にも多様性に満ちている。一番○○な民族がいる割合が高いのではないだろうか?しかし、今なお貧困にあえいでいる。カメルーンの女性研究者によると、以下の3点がアフリカの開発を阻害しているということだ。①科学的好奇心が薄い。②大規模に使用されている文字がない。③広域に渡る同朋意識が希薄。植民地化や貴金属を巡った部族間での代理戦争などの要素も多分にあると思うが、好奇心と公共心が希薄というのは大きいと思う。たが金融にして狭い部族間でのシステムが機能しているなど、西欧と異なるシステムを築いていく道を見つけるのがよいのか。

「この大陸の自然、歴史、文化は限りない多様性を秘めている。開発援助という名を借りて、もっぱら「北」の先進工業国の経験から引き出された市場原理による近代化を、あたかも地球唯一の普遍的な社会・経済のモデルであるかのごとく錯覚し、この大陸に対してそれを押し付けようとするならば、地球上のすべての人々が学び、わかち合うことのできるこの大陸の豊かな多様性は見えなくなってしまうであろう。」

斜陽 (1950年)

新潮社 太宰 治

 

『もう一度お遭いして、その時、いやならハッキリ言って下さい。私のこの胸の炎は、あなたが点火したのですから、あなたが消して行って下さい。私ひとりの力では、とても消す事が出来ないのです。とにかく逢ったら、逢ったら、私が助かります。万葉や源氏物語の頃だったら、私の申し上げているようなこと、何でもない事でしたのに。私の望み。あなたの愛妾になって、あなたの子供の母になる事。』

没落貴族の家庭を舞台にした悲しい物語。

他の本が読み進まないからと、手にとったら、グイグイと読まされてしまった。読みやすく美しい文体が気持ちよい。

職業としての学問

1980 岩波書店 マックス ウェーバー, Max Weber, 尾高 邦雄

 

マックスウェーバーが晩年にミュンヘンで行った講演の日本語訳である。学問を志すものの心構え、学問や教師の意義やあるべき姿などが語られ、イデオロギーを欲しがちな若者を叱咤する。

学問の作業に一心に従事していると、それとは関係ないことをしている時に「霊感」によって、ブレークスルーを発見する。それはビジネスにおいて芸術においても同じである。---宗教が「世界には意味がある」ということを前提としているのと同様に、各学問も何かしらの前提がある。---学問の職分はトルストイの言葉を借りると「それは無意味である。そぜならそれはわれわれにとってもっとも大切な問題、すなわちわれわれは何をするべきか、いかにわれわれは生きるべきか、にたいしてなにごとをも答えないからである」と。

存在の耐えられない軽さ

1998 集英社 ミラン・クンデラ, 千野 栄一

 

優秀な外科医トマーシュの元にテレザは汽車に乗って飛び込んだ。アンナ・カレーニナを携えて。チェコの政治状況を織り交ぜて進む恋愛小説。

ちょっと忙しくて集中して読めなかったのが悔やまれる。政治が絡んでくるストーリーは好きだ。著者の独白的な哲学が語れるのも好きだ。戦争と平和みたいだ。

イスラーム生誕

2003 中央公論新社 井筒 俊彦

 

「ムハンマドは私の青春の血潮を沸き立たせた人物だ。一生の方向を左右する決定的な一時期を私はこの異常な人の面影とともに過ごした。(中略)その頃の私に、ムハンマドのことを忘れる暇などはありようもなかった。しかも精神的世界の英雄を求めて止まなかった当時の私の心は、覇気満々たるこのムハンマドという人物の魁偉な風貌に完全に魅了されていたのだった。」

井筒氏によるイスラームについての書籍。「ムハンマド伝」「イスラームとは何か」の2部構成。

ムハンマド伝は若いときに書いたものということだったが、熱い文体で書かれていた面白かった。ムハンマドという人物をより知ることができたような気がしている。(宗教的なところは度外視して、生物的に)同じ人間なのに1千年後の世界を左右しているという影響力は計り知れない。不思議すぎる。

しなやかに生きるために―若い女性への手紙

2005 コスモスライブラリー ジッドゥ クリシュナムルティ, Jiddu Krishnamurti, 大野 純一

 

「真理は道なき土地であり、あなた方はいかなる道によっても、いかなる宗教、いかなる宗派によっても近づくことはできない。真理は、限りないものであり、無条件のものであり、いかなる道によっても近づきえないものであるがゆえに、組織化されえない。また、人々を特定の道をたどるように導いたり、強いたりするためにいかなる組織も結成されるべきではない。私の唯一の関心は、人間を絶対的に、無条件に自由にすることである。」

以上は彼の教団解散の宣言の言葉であるという。この本は人生上の悩みで心も体も傷ついていた女性への書簡集である。

うーむ。偉大な聖者の書物に意見するのは勇気がいることだけれども・・・、少なくても初めて読んだこの本は心には響かなかった。小さな言葉というのは感情や大きな摂理みたいなものを表すのは不向きだと思う。もっと大きな言葉=メタファーが必要だと思う。これは聖書などを読めば明らかだ。つづく。

シッダールタ

1971 新潮社 ヘッセ, 高橋 健二

 

彼は初めて世界を見るかのように、あたりを見まわした。世界は美しかった!世界は多彩だった!世界は珍しくなぞに満ちていた!(中略)多様をさげずみ、統一を求めて深く思索するバラモンのけいべつする、現象界の無意味な偶然な多様ではなかった。青は青であった。川は川であった。

シッダールタとは、釈尊の出家以前の名である。彼は苦行に苦行を重ねたあげく、思想も修行も超えたところに真の境地を見出す。ヘッセの描くインド思想の粋である。

創作のようだ。悩み惑わされるシッダールタが人間的に描かれている。人間的に描かれている聖人は好きである。ちなみに仏像も抽象化され記号化された日本のものよりも、インドの筋骨隆々の仏像が好きだ。

これは神学校を脱走したというヘッセがたどり着いた場所なのか?「ぼくは水の上を歩くことなんか望まない」とシッダールタに言わせている。キリスト教批判?!と心配になってしまう。20年もインド思想を研究していたというが、2部を書くのには再び禁欲などの体験が必要で3年もかかったという。

不思議なことに思想や修行も否定しているという点で、クリシュナムルティの世界に近いように感じた。こういう物語の形式をとったメタファーの方が端的に意図するものを表現できると思うのだ。

一年ののち

1960 新潮社 フランソワーズ サガン, 朝吹 登水子, Francoise Sagan

 

“いつかあなたはあの男をあいさなくなるだろう”とベルナールは静かにいった、“そして、いつかぼくもまたあなたを愛さなくなるだろう”

ベアトリスに翻弄される二人の男。ジョゼに思いを寄せる二人の男。淡い諦めの絶望感を漂わす作品。

もちろん映画の影響で読んでみた。起伏がなくて読みにくく、そんなに印象的な作品ではなかった。

同級生

1996 講談社 東野 圭吾

 

同級生の宮前由紀子は俺の子を身ごもったまま、そして俺の愛が本物だったと信じたまま事故死した。俺にできる償いは本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだった。やがてある女教師が関わっていたことを突き止めるが、彼女の絞殺体が発見されるや、一転俺は容疑者にされてしまう。学園ミステリー。

自分の子供を身ごもった人が亡くなった主人公の冷静さが論理的には分かるけど感情的に理解できなかった。最後に明かされる”想い”はよかった。