シッダールタ

1971 新潮社 ヘッセ, 高橋 健二

 

彼は初めて世界を見るかのように、あたりを見まわした。世界は美しかった!世界は多彩だった!世界は珍しくなぞに満ちていた!(中略)多様をさげずみ、統一を求めて深く思索するバラモンのけいべつする、現象界の無意味な偶然な多様ではなかった。青は青であった。川は川であった。

シッダールタとは、釈尊の出家以前の名である。彼は苦行に苦行を重ねたあげく、思想も修行も超えたところに真の境地を見出す。ヘッセの描くインド思想の粋である。

創作のようだ。悩み惑わされるシッダールタが人間的に描かれている。人間的に描かれている聖人は好きである。ちなみに仏像も抽象化され記号化された日本のものよりも、インドの筋骨隆々の仏像が好きだ。

これは神学校を脱走したというヘッセがたどり着いた場所なのか?「ぼくは水の上を歩くことなんか望まない」とシッダールタに言わせている。キリスト教批判?!と心配になってしまう。20年もインド思想を研究していたというが、2部を書くのには再び禁欲などの体験が必要で3年もかかったという。

不思議なことに思想や修行も否定しているという点で、クリシュナムルティの世界に近いように感じた。こういう物語の形式をとったメタファーの方が端的に意図するものを表現できると思うのだ。

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