街道をゆく (40)

1997 朝日新聞社 司馬 遼太郎

 

・・・李登輝さんの応接室では、話が弾んだ。やがて時間がきて私が立ちあがると、李登輝さんがあわてて制した。「もうすこし」しかし、遅くなれば、この人の健康をそこねる。私は四月にまた来ます、といった。「こんどは東部の山地へゆきますが」「じゃ、四月にはボクが案内する」と、この人は旧制高校生の日本語でいった。冗談じゃない、こんなえらい人に案内されてはたまわないとおもいつつ、同時に、アジア的な威厳演出とはほど遠いこの人の人柄におどろかされた・・・

司馬先生による「街道をゆく」台湾編。李登輝さんとの対談付き。民族や歴史に関してはこの一冊で足りてしまうような情報量がある。

膨大な書籍での調査を行っている司馬先生の現地体験を通して語られる紀行は、情報だけにとどまらない台湾への愛情や憂いと共に願いが込められていると感じた。植民地時代を肯定するような台湾人の親日的なリップサービスをさらっと流すのがかっこいい。