生物と無生物のあいだ

2007 講談社 福岡 伸一

 

「遠浅の海岸。砂浜が緩やかな弓形に広がる。海を渡ってくる風が強い。空が海に溶け、海が陸地に接する場所には、生命の謎を解く何らかの破片が散逸しているような気がする。だから私たちの夢想もしばしばここからたゆたい、ここへ還る。」

文章が美しい。学問的な説明の中に、詩的な情景が差し挟まれる。分子生物学の歴史をひもときながら、生命を定義しなおすという大きな命題に立ち向かう。「聖杯」を探して、分子生物学を前に推し進めた科学者たちの人物や、そのスキャンダルやセンセーショナルな発見の物語。

自己複製がDNAの本質であり、生物の定義だと思っていた。しかし本書によると、DNAですら「動的平衡」に支配されていて、それが生物の本質だという。また生物はなぜ原子に比べてこんなに大きいのか?というシンプルな問いにも言及されていて興味深かった。私は人が集まりである組織と生物とを比較するのが好きであるが、食物の摂取によるエントロピーのコントロールや、大きいことによって統計的な安定を確保するという考え方は興味深いものがあった。

生きることについて―ヘッセの言葉 (1963年) (現代教養文庫)

ヘルマン・ヘッセ 社会思想社 1963

 

「私は闘争や行動や反抗をいささかも支持しません。世界を変革しようとする、すべての意思は、戦争と暴力へ導くものだと思うからです。従っていかなる反対にも組することができません。私は簡単に割り切った考え方を是認できませんし、地上の不正と邪悪が取り除き得るものだとも思っていません。私たちが変えうるもの、そして変えなければならないものは、私たち自身です。私たちの性急さ、利己主義(精神的なものも)、すぐにむきになること、愛と寛容との欠如などです。それ以外の、一切の世界の改革は、たとえどんなに善意から発していても、私は無益だと思います。(書簡)」

書籍や書簡などから抜き出されテーマ別に編集されたヘッセの言葉たち。

小僧の神様・城の崎にて

2000 新潮社 志賀 直哉

 

小僧の神様などの代表作を含む志賀直哉の短編集。

印象に残ったのは「佐々木の場合」「赤西蠣太」「焚火」「雨蛙」不倫がどうのこうのというのはあまり好きではない。赤西蠣太は何度も読んだ。映画もあるみたいだから、見てみよう。