生物と無生物のあいだ

2007 講談社 福岡 伸一

 

「遠浅の海岸。砂浜が緩やかな弓形に広がる。海を渡ってくる風が強い。空が海に溶け、海が陸地に接する場所には、生命の謎を解く何らかの破片が散逸しているような気がする。だから私たちの夢想もしばしばここからたゆたい、ここへ還る。」

文章が美しい。学問的な説明の中に、詩的な情景が差し挟まれる。分子生物学の歴史をひもときながら、生命を定義しなおすという大きな命題に立ち向かう。「聖杯」を探して、分子生物学を前に推し進めた科学者たちの人物や、そのスキャンダルやセンセーショナルな発見の物語。

自己複製がDNAの本質であり、生物の定義だと思っていた。しかし本書によると、DNAですら「動的平衡」に支配されていて、それが生物の本質だという。また生物はなぜ原子に比べてこんなに大きいのか?というシンプルな問いにも言及されていて興味深かった。私は人が集まりである組織と生物とを比較するのが好きであるが、食物の摂取によるエントロピーのコントロールや、大きいことによって統計的な安定を確保するという考え方は興味深いものがあった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です