女の子だから、男の子だからをなくす本

2021 エトセトラブックス ユン・ウンジュ

 娘がいると女性の制約は気にあるので子供にも読んでもらいたくて買ってみた。男女にまつわる社会規範について可視化して変えていこうという韓国の書籍の翻訳。

本の構成

 子どもたちに向けて書かれている。「女の子たちへ」「男の子たちへ」で社会規範などについて、その後、「男女の職業」や「家の中の男女の役割分担」「性的指向」についても広く触れられている。子供にも分かりやすいように漫画のような特徴的な絵柄の挿絵が多く書かれている。

ポイント

 基本的なスタンスとして社会を変えていこう!という姿勢がある。変だと感じたことには「なんで」と聞くとか、「いいえ」「イヤです」と言うとか、「ケンカをおそれないで」、などのNOというメッセージを伝えていこうと呼びかけている。

 この姿勢は非常に難しいけど大切だと思う。やはり社会に対してNOと言わないと何も変わらないからだ。問題はオフィシャルにケンカしようとすると、訴訟・裁判ということになるがお金がかかる。そうすると強いものが勝ってしまう。結局、弱いものが戦うこと、そして勝つことには大きな障害がある。

最後に

 家庭内の男女の役割分担にも触れていた。まず、女性ばかりやっているようであれば、男性もやろうと呼びかけていた。私の意見としては、もし仕事を理由にやらない男性がいたら、「仕事ができる人は家事もうまくできる」と伝えたい。自分(男)の方が得意であるし時間的に可能なので、自分が家事や育児、学校関係も回している。それに加えて、最近思うのは家庭内の仕事も実は誰にでもできる簡単なものではないのでは?ということで、男女ともに家事が難しいと感じる人もいると思う。
 もう一つ気になるのは韓国では2015年から新しいフェミニズム運動が始まっていると書いてあったが、それと同期したように韓国の出生率が下がっていることである。サムスンでは子供の大学費用の100%が補助される制度があると聞いたが、それでも経済的なことやその他の様々な原因はあるとは思う。私は男女の平等・公平や社会的な抑圧の減少を切に願っているが、サピエンス全史で提示されているように個人が安寧に生きるのと、人類の発展に相反する関係があるかもしれない。とはいえ韓国の女性の地位向上が著しいとも感じない。最近も韓国にも行って人とも話したが、何か人々が抑圧されているようにも感じる。一方で台湾は抑圧が低く高齢の女性がミニスカートで闊歩していて社会規範の緩さは低いように感じる。とはいえ、ここも出生率は下がっている。占いで結婚の相手や時期なども決める社会だからかもしれないが。
 女の子が仮面ライダーを見て、男の子がプリキュアを見たら、男女の恋愛は成立するのか?と言っていた人がいたが、社会規範が男子->女子、女子->男子のプロトコルを作っている可能性もある。個人的にはこういうのは嫌いだが、このプロトコルを失うとコミュニケーションが高度になるのではないかとも感じる。

 娘も読んでくれたのでくれたので、特に女の子にはおすすめかも。いろいろ考えるキッカケにもあるし、子供と話し合うキッカケにもなると思う。名誉男性を目指している人や、20代を気持ち悪いオジサンに仕えつつ乗り切って、マッチョな男を捕まえて結婚して、家事育児を手伝わない旦那に文句を言いながら、楽しく暮らしたい人は読まなくて良いかもしれません。

線は僕を描く

2022 東宝 小泉徳宏

 予告編が良かったので久しぶりに映画館で映画を見た。

登場人物

 大学生の一年生の霜介(そうすけ)は身内を亡くし何か本気になれずにいる。篠田千瑛は水墨画の巨匠の篠田湖山(こざん)の孫娘で、メディアなどで美しすぎる水墨画家ともてはやされる。西濱湖峰(こほう)は先生の身の回りの世話などをしている。

物語の始まり

 霜介は絵を寺に搬入するバイトをするが、ふと引き込まれる作品に出会う。休んでいると先生の助手のような湖峰と話し、それが水墨画だと知る。弁当を食べていると人手が足りないのもあり、いつのまにか巨匠の篠田湖山のライブパフォーマンスも手伝うことになる。霜介は湖山が描いた水墨画にも心をうたれる。湖山は書き終わると突然、霜介に近づき「弟子にならない?」と水墨画に初めて出会った霜介に問いかける。

テーマ

 霜介は過去に捕らわれて、前に進めない。そんな折に水墨画に出会う。「かたちをみるな、本質をとらえよ」という湖山の言葉に導かれて、自分の内面とも向き合うキッカケを得て、自分の中のしがらみを水墨画に昇華していく。

最後に

 透明感のある画面とグイグイと引っ張る脚本で元気が出た。水墨画を描いているときの躍動感のあるサントラも引き込まれた。主役二人の演技も周りの方々の演技ももちろん素晴らしい。流星君はよく知らないけど泣かされたし。清原果耶さんの衣装も醸し出している凛とした雰囲気が美しかった。あの日本家屋とか。もう一度は観て、あの世界に浸りたい。映画館で観たい。青々しい青春映画は好きだ。

 瑞々しい青春映画だけれども、恋愛観は薄く自分と向き合っていく話。何か前に進めなくなっている人や過去に捕らわれている人、元気をもらいたい人にはお勧めの作品です!