「王室」で読み解く世界史 教養として知っておきたい

2018 日本実業出版社 宇山 卓栄

 「王室」という目を引くタイトルで手にとった。

本の構成

 十部25章で構成されて、地域ごとに部に分かれている。第一部「世界の王室を理解するために」で世界に残っている王室の数、王とは何か、日本の天皇について説明している。第二部「ヨーロッパの君主たち」では王と皇帝の違いやドイツ・フランス・イタリアと、イギリス・ロシア・北欧の違い、さらに教皇について説明する。第三部「イギリス、フランス、オランダ」ではイギリス王室の歴史、フランスにはなぜ王室がないか、オランダ王室の歴史とイギリスとの関係を解説する。第四部「スペイン、ベルギー、ドイツなど」でスペインのハプスブルグ家、ハプスブルグ家とネーデルラントのベルギーをめぐるオランダとの関係とイギリスの思惑、ヨーロッパに残るミニ公国など、ドイツ・イタリアの王室の最後を説明する。第五部「北ヨーロッパ、東ヨーロッパ」ではスウェーデン王室、デンマーク王室、ノルウェー王室のルーツ、ロシアのロマノフ朝、欧州アジア境界の複合国家について説明する。第六部「中国」では中国の皇帝や万世一系を阻んだ易姓革命、清が王族を残さなかった理由と日本との関係、第七部「朝鮮」では日本による朝鮮の併合、李氏朝鮮による統治の実際、李氏と日本の関係を解説する。第八部「東南アジア、インド・中央アジア」では最も裕福なタイ王室の歴史、カンボジア・マレーシア・ブルネイ・ベトナムの王朝の最後、モンゴル系のティムール帝国・ムガル帝国を説明する。第九部「中東」で王室を持つサウジアラビアとアラビア半島の国家、ムハンマドの子孫が王となった国々、オスマン帝国とイランの王室を説明する。第十部「アフリカ、アメリカ」では残ったアフリカの王国、ラテンアメリカのインカ帝国の崩壊などを説明する。

気になったポイント1 – 日本

 第一部では少なくとも1500年続く日本の万世一系の天皇の特異性について説明している。その理由としては男系天皇と側室の子供の扱いをヨーロッパとの違いとして大きく取り上げている。その他、フランス革命では民衆が王を処刑したが、日本で民衆が天皇を処刑するなどはありえないと論じている。

 アジアでも側室の子供が王を継承するとなると、アジアの国家ももう少し長く続いても良い気がする。地理的な理由もあるとは思うが、他のところでも語られている日本は権威と権力を分離したというのも大きいと思っている。他の本では東南アジアで権威を持つ集団が王を追認したようなものも読んだが、なぜその国家は存続しなかったのかも気になるところだ。経済的な安定などだろうか…。

気になったポイント2 – ヨーロッパ

 周辺部の王国:イギリス・ロシア・北欧・東欧の違いとして、中心部の王国:ドイツ・フランス・イタリアと、王国の形成が周辺部は土着性・血縁性から自然発生的に生まれたのに対して、中心部は西ローマ帝国分裂から生まれている違いがあり、中心部の王国の王権が弱いと説明している。

 イギリスは王室をまだ持ちつづけEUからの独立を遂げたが、このような経済的なつながりかアイデンティティのどちらを優先するかに関わっていたりしないかとも思った。また国家が広範に及ぶと王の力が弱くなるというのは興味深い。ローマも領地の拡大に応じて、王政→共和制と変わっているのは関係があるような気もした。

気になったポイント3 – 市民革命

 フランス革命は民衆が王を処刑して王政を廃止したが、アジア・中東・アフリカも植民地からの独立の際には王政が廃止されている例がある。

 政権を倒すというような意味合いだと思うが、それぞれの王朝が地域によってどのように変わるのか。過去の王国はどのように倒されたのか、どのように存続したのかの傾向のようなものはを知りたい。

最後に

 内容が盛りだくさんであった。王室の歴史というのは支配者層の歴史かもしれない。支配者層がどう移動したり、どこをどのくらい支配したのか。現在の王室だけでなく古い王室についてももっと知りたくなった。

 いずれにしても世界各国の27の王室、特に日本の王室について知りたい人にはおすすめです!

「宗教」で読み解く世界史 教養として知っておきたい

2020 日本実業出版社 宇山卓栄

宗教は世界史の中で大きな要素であって興味があったので手に取った。一つ一つのチャプターが短いので、扱っている範囲は広いが読みやすく工夫されている。

本の構成

 四部32章で構成されている。第一部「東アジア」では、中華思想と宗教である儒教を信じる中国、小中華に服した朝鮮、成文や組織のない神道を重んじる日本、儒教・仏教の影響を受けたが中華に組み込まれなかったベトナム、清に制服されたイスラム教の新疆ウイグル自治区、中国とは別文化の仏教国の雲南、中国から逃げ逃れた道教が信奉されている台湾について説明。

 第二部「インド・東南アジア」では、選民思想をもったバラモン教は王朝が国をまとめるための仏教に押されたがヒンズー教に変遷し地方豪族が信仰するようになったインド、アンコール朝はヒンドゥー教だったもののその後仏教国として栄えたタイ・ミャンマー・カンボジア、中国の混乱で海上貿易の収益源を失った仏教国シュリーヴィジャヤ王国、王朝が自分と共に民と富裕層の利益を図り建設されたアンコールワットなどのヒンドゥー教の王国、インドで発展した商人に時事されたジャイナ教・宗教的に分断されたパンジャーブ地方で生まれた戦闘色の強いシク教、インドをイスラム化して統一できなかったムガル帝国、イギリス統治で分割させられたイスラム教国パキスタン、仏教のアーリア系シンハラ人とヒンドゥー教のドラヴィダ系タミル人との内戦になっているスリランカ、ムガル帝国を引きづいでイスラム教のバングラディッシュ、マラッカ王国のイスラム教を引き続き中国資本に対してイスラム主義で対抗しているマレーシアやインドネシアについて説明。

 第三部「ヨーロッパ」では、カトリックの教皇による緩やかな教皇の連合体による支配と腐敗による瓦解、教会との利権闘争に利用され印刷技術によって広まったプロテスタント、営利を推奨しブルジョアを取り込んだ経営者カルヴァン、資金が集まって大航海時代をスペインと新教徒が集まるアントワープを潰して没落した敬虔なカトリックのフェリペ2世、新教徒が毛織物産業で経済発展をさせてスペインを倒したイギリスとオランダ、ブルジョアを取り込むためプロテスタントも取り込んだイギリス国教会、メアリ1世が諸侯と和解するためにカトリックを復活させるがエリザベス一成がイギリス国教会を復活、カトリックのアイルランド人とイギリスの対立、プロテスタントを使ってカトリックを排除し王権を確立したデンマーク、オランダ新興勢力はハプスブルグ家との代理戦争を支援しついにオーストリアだけになったカトリックのハプスブルグ家、フランスはユグノーの支援を受けたアンリ4世に始まりそれを覆して新興ブルジョアの財を接収しようとしたルイ14世さらに反動で合理主義で混迷を極めたフランス革命、ローマの分裂で生まれたギリシア正教とビザンツ帝国崩壊で独立した各国の正教、東方正教会の最高祭祀者となったロシア皇帝、ポーランド・ハンガリーはドイツに近くカトリックが主流、プロテスタントが根付かずカトリックに戻ったチェコやスロバキア、イギリスの貧困層のプロテスタンとピューリタンが移住したアメリカ、カトリックのヒスパニック系。

 第四部「中東・中央アジア・アフリカ」では、通商を重視したイスラム教、アラブ人軍人のクーデターで生まれた軍人のウマイヤ朝、軍人の重用をやめたが分裂を招いたアッパース朝、イスラム商人に支えられた戦闘のプロのクルド人のサラディンは戦争で商機を失うのを嫌った商人たちに財政援助を止められ、利権を狙うリチャード一世に敗れる、トルコ人軍人のマルムーク朝はモンゴルの進撃を止めてインド洋交易の利権も抑えるがポルトガルの大砲に敗れ利権を失いオスマン帝国に吸収される、宗教民族に寛容なオスマンの発展と衰退、近代化を阻んだイスラムの要因と改革したトルコのケマル、シーア派の十二イマーム派のイランとアメリカその他の国とのグレートゲーム、中国マネーに支配されつつある中央アジア五カ国、イスラム教国でモンゴル系のティムール帝国、それを滅ぼしたトルコ系のシャバイニ朝、それを滅ぼした無神論でイスラムを弾圧した南下したロシア、その後ソ連は西側諸国への対抗するためイスラム教に懐柔的に対応、崩壊後はイスラムが復権したが弾圧によりイスラム信仰は緩やかに、富を肯定するユダヤ教とその不満から生まれたキリスト教、アフリカでの北のイスラム教と南のキリスト教の分断、コプト教の流れを汲むエチオピア

気になったポイント – 宗教は強力なソフトツール

 宗教は国内に向かっては「ソフトツールとして、思考や思想を共有し、一つの価値理念に向かって協働することができる」また国外に向かっては「公然性をもった対外工作ツールとして政治的に利用されてきた」というような、「宗教は救済」というようなナイーブなものでないと語っている。

 たしかに民族を超えて協働するには宗教という物語が一番成功してきた気がする。しかし今は資本主義というのはまさにソフトツールで思考や思想を共有し、一つの価値理念に向かって会社などを通じて協働している。

気になったポイント – 利子

 利子は以前から気になっていたが、イスラム教は利子は貧富を拡大するからとらないとあり、それが近代化を阻んでいると書いてあった。一方でカトリックは認めていなかったが認めた。カルヴァンは5%を許容して商業が発展。溜め込んだお金を外に回すために重要である気がする。利子についてはもっと勉強したい。

最後に

 「宗教地政学」の本と銘打っているが、国や地域ごとの宗教の遷移と対立などがよくわかった。宗教という切り口で世界史をみたい人にはおすすめです!