食品を見わける

岩波書店 磯部 晶策

 

「北海道の帯広市の町村農協が集まって設立した乳業メーカーがある。そのバターのよさに引かれて工場見学におもむいたとき、工場の庭に黒色のえたいのしれないごみの山を見かけた。たずねてみると、コーヒーの出し殻ということである。牛乳工場にコーヒーの出し殻がボダ山のようにうず高く積みあがっている。『なにに使ったのですか』という質問に、『もちろん、コーヒー牛乳の材料ですよ』という答えを聞いたときには、文字どおり仰天、空を仰ぐほどおどろいた。麻袋づめのコーヒーを焙り、適当な粒子に挽き、それを煮出してコーヒーをつくる現場を見てさらにおどろいた。」

30年も前に出版された食品の本だが、まったく色あせていない。バイブル的な書ということだ。

とにかく筆者の知識の深さと広さに驚いた。トマトジュースの歴史や、鶏卵をはじめ、酒、ジャム、バター、はちみつ、チョコレートなどの知識の他にも、海外の食品やスーパーマーケットの成り立ちなどカバーしている範囲が広い。“日本ではチョコレートを溶かして飲むという習慣がないために海外のチョコレートよりも添加物を入れやすい”などは文化的背景も絡んでいるので興味深かった。食品については大騒動になったことが何度もあるが1、2年すれば忘れ去れるということだ。ここ最近の中国産の食品についても同様だろう。

「味と安全性を守るという信念のもとに努力している製パンメーカーが、合成保存料を断乎として添加しないために、湿気が多く暑い季節には、自社製カステラにかびが生えることで悩んでいた例がある。消費者の苦情があるたびに、謝りにいったり保健所に始末書を出しにいかなければならない。『合成保存料が許可されているのだから、それさえ添加すれば……とふと思うたびに自分自身を叱り付けているのですよ』と語っていたが、メーカー側には、このような人知れぬ苦労もある。」

アメリカひじき・火垂るの墓

1972 新潮社 野坂 昭如

 

「アメリカひじき」「火垂るの墓」を含む野坂氏による6つの短編集。短編といってもいいのかと思うような重さ深さ。

実は「火垂るの墓」は映画をまともに見たことがなかった。とにかく子供には弱い。読後は、やるせなさすぎてヒドいことになった。もうね、割腹して土くれに帰りたかった。「燃土層」「死児を育てる」「ラ・クンパルシータ」なども言葉に表せないものがある。それにしても「火垂るの墓」を映画化したのは素晴らしい決断だ。こんな形で子供が死ぬことは世界のどこでもあってはならない。ああ必殺思い出し泣きが発動…。三宮駅で黙祷をささげたい。

読書について 他二篇

1983 岩波書店 ショウペンハウエル, Arthur Schopenhauer, 斎藤 忍随

 

「読書で生涯をすごし、さまざまな本から知識をくみとった人は、旅行案内書をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようである。こういう人は報告すべき材料をいろいろ持ち合わせているが、その土地の様子についてはまとまった知識も、明瞭な基礎的知識もまったく欠いている。」

「思索」「著作」「読書について」の3部だて。読書よりも思索しろ。内容がないのに書こうとするから量増ししたような文体になる。10年後に消えるような悪書を読むな、古典を読め。

本は思想を得るだけのものじゃないから、思索とはまた別の価値があると思う。文体については保守的な気がした。たしかに美しい文体はある。だけど言葉は変化しつづけるものだ。古典を読めというのは、基本的に同意。人生は短いから歴史が評価したものは確実だ。けど現代の書籍でも100年後に残っているものがあるはず。それを読まないのはあまりにも悔しい。ともあれ、さすがにボコクソに言っているだけあって、氏の文体は理路整然としていて美しく読みやすい。古典を読んでない…。

「読書に際しての心がけとしては、読まずにすます技術が非常に重要である。その技術とは、多数の読者がそのつどむさぼり読むものに、我遅れじとばかり、手を出さないことである」

魂がふるえるとき

2004 文芸春秋 宮本 輝

 

「いい小説をよみたいのだが、宮本さんはどんな小説を進めるかと、たまに若い人から聞かれるときがある。そんなとき、私は若い人がとっつきやすく、なおかつ小説としてさまざまな深みを蔵したものを勧めるのだが、(略)最近になって、その青年の好みに合わなくても、途中で読むのを放棄しようとも、私は意に介さず、いくら勧めても読む人は読むであろうし、読まない人は読まないであろうと考えて、私の好きな小説を教えてあがればそれでいいのだと思うようになった。」

宮本先生が勧める16の日本文学の短編。

飛ばしたのもあったけど、面白いものもあった。永井荷風などの日本文学はまだまだ私には早い気がした。読んでみたかった国木田独歩の作品が入っていたが、やはり波長が合う気がした。また文語調のリズムも素晴らしいと思うに至った。

ダ・ヴィンチ・コード

2006 角川書店 ダン・ブラウン, 越前 敏弥

 

深夜、ハーバード大学の宗教象徴学教授であるロバート・ラングドンの下は、フランス警察に起こされる。ルーブル美術館に同行し、美術館館長ジャック・ソニエールの奇怪な遺体に遭遇する。そこには謎のメッセージが残されていた。ソニエールは何を伝えようとしていたのか?太古からの秘匿されてきたキリストの謎にせまるミステリー。

常に謎が物語を引っ張り、すらすらと読める。実在しただろう使徒の人間的一面には興味を引かれる。半分くらいは真実であってほしいなぁ。ストーリーとは関係ないけど、あとがきの奥様への賛辞が一番印象に残ったww

現代アフリカ入門

1991 岩波書店 勝俣 誠

 

現代アフリカを解説した書籍。植民地vs独立vs連邦制化、社会主義vsイスラーム主義vs民主主義、汚職vs援助vs貧困、農業vs工業。大きな流れをさらっている。

文章は分かりやすかったが、構成がもう少し工夫できたら、頭の悪い私でも整理しやすかったかもしれない。全体としては一本筋が通っていて、良い印象を持った。

アフリカは人類の故郷であり、民族的にも多様性に満ちている。一番○○な民族がいる割合が高いのではないだろうか?しかし、今なお貧困にあえいでいる。カメルーンの女性研究者によると、以下の3点がアフリカの開発を阻害しているということだ。①科学的好奇心が薄い。②大規模に使用されている文字がない。③広域に渡る同朋意識が希薄。植民地化や貴金属を巡った部族間での代理戦争などの要素も多分にあると思うが、好奇心と公共心が希薄というのは大きいと思う。たが金融にして狭い部族間でのシステムが機能しているなど、西欧と異なるシステムを築いていく道を見つけるのがよいのか。

「この大陸の自然、歴史、文化は限りない多様性を秘めている。開発援助という名を借りて、もっぱら「北」の先進工業国の経験から引き出された市場原理による近代化を、あたかも地球唯一の普遍的な社会・経済のモデルであるかのごとく錯覚し、この大陸に対してそれを押し付けようとするならば、地球上のすべての人々が学び、わかち合うことのできるこの大陸の豊かな多様性は見えなくなってしまうであろう。」