カラマーゾフの兄弟

2006 光文社 ドストエフスキー, 亀山 郁夫

 

十九世紀の半ば過ぎ、ロシアの田舎町に住む強欲で無信心で淫蕩な地主フョードル・カラマーゾフの三人の息子たちの物語。放蕩の限りをつくす先妻の子のドミートリイ、インテリののイワン、そして誰からも愛される清純な青年アレクセイ。この3人を揺るがす奔放で妖艶な美人、グルーシェンカをめぐって事件が起こる。キリスト教または神についての過激な論争を織り交ぜて、物語は進行する。

やっとこさ、読んだ。モーム十選の10冊目だ。岩波のものが進まなかったので、読みやすいらしい光文社の訳で読んだ。ほぼ記憶にない「罪と罰」を読んだきり、ドストエフスキーは好きではなかった。フロイトの解説本を読むと賭博依存症患者として出てきていたから、「掛け金のために小説書いてたんでしょ?」と思っていた。今もそう思ってはいるが亀山氏の解説のおかげで毛嫌い度は減った気はしている。トルストイ好きの友達とはドストエフスキーの小説は(その暗さゆえ)「ドブ川」のようだと言っていたが、このカラマーゾフの兄弟についてはアリョーシャという明るさもあり、違った印象を持った。アリョーシャという光り輝く青年と出会うためにも、神という問題のためにも読んだほうがいい本だ。

この訳そのものも読みやすいと思うが、巻末にある解説がさらに読みやすさを助長しているように思った。訳注や作者注がたくさんあるものがたまにあるが、それらを巻末に一つの文章として、巻末にまとめてくれたら読みやすいかもしれないとも思った。それにしても、亀山氏の思い入れには一番驚いたかもしれない。5巻目にある氏の考察からは熱すぎる思いが伝わってくる。「グローバルな時代の中、日本の各地でカラマーゾフの兄弟のことが話題に上れば嬉しい」ようなことが書かれていたが、グローバルな時代のせいか、私なんかは海外で読んだり話したりしていますよ、とお伝えしたい。