天使の梯子

2004 集英社 村山 由佳

 

カフェでバイトする慎一は、お客として来た女性に目を留めた。10年ぶりだったが、ひと目で彼女が中学の担任教師だった夏姫であることに気付く。夏姫との仲を深めたいが、彼女には歩太という分かつことのできない存在がいる。迷う3人はゴールを見つけることができるのか。『天使の卵』の続編。

夏の文庫本フェアに村山さんの作品がかなりあったので、もう一冊くらい読んでみた。男性の視点で書かれているが違和感がなかった。腹を割って話すというシーンがよかった。

魂萌え !

2005 毎日新聞社 桐野 夏生

 

敏子は59歳。夫婦ふたりで老後の生活を平穏に送っていくはずだった。しかし、夫・隆之が心臓麻痺で急死し、その人生は一変した。8年ぶりにあらわれ強引に同居を迫る長男・彰之。長女・美保を巻き込み持ちあがる相続問題。しかし、なによりも敏子の心を乱し惑わせるのは、夫の遺した衝撃的な「秘密」だった。老いと孤独をテーマにした作品。

派手なタイトルなわりには、主人公が地味でビックリした。けれど徐々に変わっていくので多少は救われた。「一生懸命努力しなければ、なかなか信頼関係を築くことができないような、もどかしい夫婦関係だったということ。」信頼関係を自然に築けるって、一番大事じゃないか。

私の祖母が、亡くなった祖父について「会社に行っていると思っている」と語ったときには驚いた。亡くなって、もう何年もたっていたからだ。たしか女性が亡くなった後の男性の平均余命は4年で、男性が亡くなった後の女性の平均余命は20年とか聞いたことがある。この辺をテーマにした作品をもっと読みたい。

殺人の門

2006 角川書店 東野 圭吾

 

和幸は歯科医院の家に生まれ、裕福に暮らしていたが、ある事件をきっかけに家に居場所がなくなっていった。そんなときに同級生の倉持修と親しくなる。このとき、和幸は倉持修が人生を左右する存在になることに気付いていない。

うーん。人物が極端すぎる気がした。殺人についても自分の考えに影響するようなインパクトはなかった。悪徳商法の勉強にはなるかもしれない。

マグロ戦争

2007 アスコム 軍司 貞則

 

魚は有限な資源だ。以前、飛行機で漁業関係の方と乗り合わせて話す機会があった。ここぞとばかりに、海洋資源について聞くと「減っていっている」ということだった。その人は「刺身は料理だ」と言っていた。刺身として食べるために様々な技術を使っているとのことだった。それは、この本で語られているマグロの超低温保存技術についてのことだったのかもしれない。

著者は様々な人に取材することでマグロについての情報を集めていっている。逆に資源が枯渇しているという近年のマスコミ報道には否定的だ。

日本のマグロ生産者(漁船)がカツカツ。台湾人は国ごとに船の制限があるから、他の国の国籍の船として漁業をしたり、日本人に帰化して日本船のオーナーになっている。超低温によって保存が効くようになり、流通革命が起こった。現在では半年もたせることができるということだ。

違法行為をする台湾船を主導しているのは日本の商社。日本VS台湾の構図ではなく、日本VS日本であるとのこと。(日本の商社は日本の産業を壊すことを他業界でもしていると思う。林業について前から知りたいと思っている)

COマグロ。一酸化炭素で色をよくして、かつ鮮度を保っているマグロ。台湾などではマグロの消費量は少ないとのこと。巻き網という一網打尽の漁法は環境への負荷が大きい。アメリカなどの環境保護団体のために、イルカを保護するために捕るべきではないマグロの稚魚が犠牲になっているとのこと。そもそも環境保護団体は企業献金によって支えられているので、企業の利益に沿った行動を少なからずするとのこと。マグロの稚魚はツナ缶などになるとのこと。(つまり環境に負荷を与えている漁法で取られたものがツナ缶…。うむむ)

そしてマグロの蓄養。抗生物質の投与や、薬品での色づけ。(まあ、これはマグロに限らないだろう)

まとめると、「生のクロマグロが食べたい」と思った。

雨はあした晴れるだろう

2000 角川書店 三浦 綾子

 

「雨はあした晴れるだろう」「この重きバトンを」「茨の蔭に」の3篇。

白と黒がハッキリしている。鋭すぎる正義に痛みを感じる。自分の中の“罪”を感じるのか。やっぱりキリスト教的な手法なのかな。「茨の蔭に」で子供が犠牲になっているのはやるせない。ほんとにそれだけはやめて欲しい。

柔らかい心

角川書店 鎌田 敏夫

 

イタリアで自立して生活する律子の元に一通の写真が届く。二人の少女が写っている写真だ。「私とあなたは病院で取り違えられたんや、二十八年前に」日本から来た美弥はさらりと告白する。それから律子は自分自身を見つめなおす。

ソツがない。芸術に対する考え方が好き。女性の手練はすごい。こんな女性を作り上げられる作家さんはモテるだろうなぁ~って。

空中庭園

2005 文藝春秋 角田 光代

 

「家買ったら帰るところがあるって発想がお子さまなんだよねー」

娘、父、母、息子。それぞれから見た“隠し事のない”家庭。

やるせない。ん、けど勉強になった。

メゾン・ド・ヒミコ 通常版

2006

 

自分と母を捨てたゲイである父親。沙織はその存在さえも否定して生きてきた。ある雨の日、彼女が働く塗装会社に春彦という青年が訪ねてくる。父の恋人である彼は、沙織の父が癌で死期が近いと言い、父の営む老人ホームを手伝わないかと誘う。“メゾン・ド・ヒミコ”—-そこはゲイのための老人ホーム。犬童一心監督、渡辺あや脚本による第2弾!!

前作のジョゼ…が良すぎたので、ちょっと躊躇していたけど、早く見ればよかった。家族、居場所、ゲイ、老人、恋愛、性愛、、、テーマがこれでもか!ってほど詰まり過ぎているが、すべてを消化しきっている。すごすぎる。

秘密

2001 文芸春秋 東野 圭吾

 

「世の中には、素晴らしいものが本当にたくさんあるのよね。そんなにお金をかけなくても幸せになれるものだとか、世界観がかわっちゃうものだとかが簡単に手に入る。どうして今まで気がつかなかったのかなと思っちゃう」

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの直子だった。直子として送ったものとは違う人生を切り開いていく妻に、夫・平介はとまどいを隠せない。切ない、そして愛情あふれるファンタジー。

いやー。せつねー。せつないの大すきときめきときす。正直、何となく手にとったので、あまり期待をしていなかったけど、こんなに泣けるとは思わなかった。3本くらい軽くとられた。最後のページでは、ともえ投げで場外までぶっ飛んだ。「目に見えるものだけが悲しみではない」など感情のディテールをうまく捕らえた言葉もあったし。ファンになりますたたたたたまらん。

オーデュボンの祈り

2003 新潮社 伊坂 幸太郎

 

コンビニ強盗に失敗した伊藤は、警察に追われる途中で意識を失い、見知らぬ島で目を覚ます。仙台沖に浮かぶその島は150年もの間、外部との交流を持たない孤島だという。そこでは独自の文化が発達している。言葉を解するカカシ「優午」がいて、人を死によって自由に裁く権利を持つ男「桜」がいる。その島で事件が起こる。

どうにも読みにくかった。カオス理論などの説明がチャチに感じる。うん、けど、やっぱり正義漢かな。超正義漢トマス・モアが「ユートピア」を作ったけど、それを意識しているところもあるのかな。