斜陽 (1950年)

新潮社 太宰 治

 

『もう一度お遭いして、その時、いやならハッキリ言って下さい。私のこの胸の炎は、あなたが点火したのですから、あなたが消して行って下さい。私ひとりの力では、とても消す事が出来ないのです。とにかく逢ったら、逢ったら、私が助かります。万葉や源氏物語の頃だったら、私の申し上げているようなこと、何でもない事でしたのに。私の望み。あなたの愛妾になって、あなたの子供の母になる事。』

没落貴族の家庭を舞台にした悲しい物語。

他の本が読み進まないからと、手にとったら、グイグイと読まされてしまった。読みやすく美しい文体が気持ちよい。

職業としての学問

1980 岩波書店 マックス ウェーバー, Max Weber, 尾高 邦雄

 

マックスウェーバーが晩年にミュンヘンで行った講演の日本語訳である。学問を志すものの心構え、学問や教師の意義やあるべき姿などが語られ、イデオロギーを欲しがちな若者を叱咤する。

学問の作業に一心に従事していると、それとは関係ないことをしている時に「霊感」によって、ブレークスルーを発見する。それはビジネスにおいて芸術においても同じである。---宗教が「世界には意味がある」ということを前提としているのと同様に、各学問も何かしらの前提がある。---学問の職分はトルストイの言葉を借りると「それは無意味である。そぜならそれはわれわれにとってもっとも大切な問題、すなわちわれわれは何をするべきか、いかにわれわれは生きるべきか、にたいしてなにごとをも答えないからである」と。

音符と昆布

年度: 2008 国: 日本 公開日: 2008/1/26

 

フードコーディネーター・モモは、鼻に障害があり、匂いを感じない。そんなモモに今まで聞かされていなかった姉・かりんが訪ねてくる。挙動不審のかりんはアスペルガー症候群だという。二人は何かを共有することができるのだろうか。

池脇千鶴さんファンなのでマイナスなことはあまり書きたくはないが、これはちょっと悲しかった。安っぽい演出は高級魚を化学調味料で調理しているような感じさえした。予算の都合か日程の都合だったのだろうか、残念な内容である。

存在の耐えられない軽さ

1998 集英社 ミラン・クンデラ, 千野 栄一

 

優秀な外科医トマーシュの元にテレザは汽車に乗って飛び込んだ。アンナ・カレーニナを携えて。チェコの政治状況を織り交ぜて進む恋愛小説。

ちょっと忙しくて集中して読めなかったのが悔やまれる。政治が絡んでくるストーリーは好きだ。著者の独白的な哲学が語れるのも好きだ。戦争と平和みたいだ。

読書案内―世界文学

1997 岩波書店 サマセット・モーム, 西川 正身, William Somerset Maugham

 

以下にかかげる書物は、あなたが学位をとる助けにもならなければ、生計を立てる役にもたたないであろう。船をあやつることを教えてもくれなければ、動かなくなった自動車をふたたび走らせることを教えてもくれないであろう。そのかわりに、あなたがより充実した生活を送ることには役立つであろう。」

膨大な文学の前で途方に暮れている人への読書指南。人物に主眼を置いた作品の解説が面白い。「とばしてもよい」というのが目からウロコだった。私も時に飛ばしていることがある。モーム氏のようにまったり読むのが理想だけど…。

「朝、仕事をはじめる前に、わたくしは、科学書なり、哲学書なり、新鮮で注意深い頭脳を必要とする書物をしばらくよむ。それによってよき刺激をうけて、わたくしはその日の仕事にとりかかる。その後、仕事がおわり、きもちはくつろぐが、はげしい努力を必要とする精神活動はやりたくない気分になっているとき、わたくしは、歴史、随筆、批評、ないし伝記をよむ。夕方になると小説を読む。以上のほか、よみたい気分になったときの用意に、詩集を一冊いつも手近かなところにおいておく。よる寝るときには、どこからよみはじめ、どの一節のおわりでやめようと、少しも心をかき乱されることのない書物を一冊、といっても、めったに見つからないが、そういった書物を枕元に用意しておく。」

田園交響楽

1952 新潮社 ジッド, 神西 清

 

無知で動物のようだった盲目の少女ジェルトリュードは、牧師に拾われて育てられ、美しく知的に成長をとげる。しかし開眼手術の後に自殺を図るのである。美しい文章でつづられた悲劇的な物語。

翻訳が素晴らしいのか、文章が表現がたまらなく好きである。もっと長いものを読みたい。しかしなぜ、ジッドの物語では自殺するのだろう。キリスト教徒なのに…。