菊葉荘の幽霊たち

2000 角川春樹事務所 角田 光代

 

典子と吉元は吉元の新しい部屋を探しに行く。吉元は菊葉荘を気に入ったが、あいにく空室がなかった。職にあぶれていた典子は、菊葉荘の住人を追い出す作戦を開始する。極度にセパレートされた都会人の生活にスポットをあてた作品。

角田さんはテレビで何度か見たことがあった。「小説家であり続けるために小説を書いている」と言っていたのが印象的だった。読んでみると、期待したとおりの作品だった。ふわっとして、ストーリーはとりとめがない。けれど、じんわりと痛快で、テーマがしっかりあり、現代人の空虚感にズバッと切れ込んでいく。もっと他の作品も読まないとダメですね。

スキップ

1999 新潮社 北村 薫

 

高校の文化祭を終え、疲れた真理子は家に帰るとすぐ寝入ってしまう。ふと目を覚ますと、知らない家の二階で寝ている。一階に下りると、玄関を開けて誰かが入ってくる気配。家に入ってきた制服に身を包んだ女学生に、おそるおそる、ここが誰の家なのかを聞くと、、、「ふざけているの?お母さん?」との答えが。人生や時間を描いた作品。

うーむ。途中は流し読みしてしまった。あまりにも牧歌的な世界観で、気持ち悪い正義感が鼻につく。文章も何だか読みにくい。まったく合いませんでした。

プラナリア

2000 文芸春秋 山本 文緒

 

「生まれ変わるなら、面倒なセックスをしないで増えるプラナリアになりたい」

乳がんで乳房を切除し、ときどきそれを話題にして場を白けさせる自称「社会不適応者」の“ヒヨッチ”。離婚してヤル気が起きず「暇」を持て余しているプーの泉水。子どもに対して母親としての自然な感情が起きず、怒れば良いのか許せば良いのかがわからない加藤。セックスしなくて良いカレシが心地よくベストパートナーだと思っているのだけど結婚には踏み切れない美都。脱サラしてお店をもったが、奔放なスミ江を持て余す“マジオ”。。。ゲンダイの人が抱えている微妙な感情を描き出す5つの短編。

始めの4つの感想は「鈍痛」、、、「うーん」と思って最後の短編を読むと、赤子の手をひねるように泣かされてしまった。山本文緒さんは2冊目だけど、すでに山本ワールドにシンクロできるようになってしまった。カブトガニに生まれ変わりたいとか言っている自分も同じ系統なのか?!もっと読みたい。。。

疾走

2003 角川書店 重松 清

 

海沿いの米どころ。そこには「浜」と「沖」、2つの地域があった。「浜」の人は干拓地に新たに移り住んだ「沖」の住人をさげずむ。そんなふるさとで育ったシュウジには、成績もよく両親の期待を一身に受ける兄、シュウイチがいた。シュウイチもまた「沖」をことあるごとにけなす一人だった。シュウイチは家では絶対的な存在だった。そしてシュウジはシュウイチから隠れた暴力を受けるようになる。しかし、このころはまだ幸せだったのだ。。。。ゆっくりとナイフを腹に突き刺されるような痛み。読むのだったら覚悟が必要です。

テーマは「カナリア」と同じ「他者とのつながり」。物語の悲惨さは「リリイシュシュのすべて」の100倍。一気に読んでいたら吐いていたかも。精神がなんとか最後まで持ちこたえたが、ズタボロといった感じ。聖書が出てくる。しかし聖書では救えないほどの状態。救いがない。はっきり言ってお勧めしません。どういう人が読むのがよいのだろうか…。逆にいうと、、、幸せな人は読んではいけません。不幸な人も読んではいけません。いじめられている人も読んではいけません。精神にダメージを抱えている人も読んではいけません。

光射す海

1996 新潮社 鈴木 光司

 

入水自殺を図った女性が精神病院に運ばれてくる。その女性は妊娠していることがわかるが、問いかけても反応がない。彼女に秘められた過去とは…。運命に翻弄される人生を描いた心にしみる傑作。

きた。30ページくらいで、すでに鳥肌がたっていたが、最後までその興奮は続いた。人生とその交わり。弱さ。強さ。過ち。痛み。いたわり。救い。すべてのエッセンスが絶妙に溶け合い混ざり合い、人間という脆く矛盾に満ちた存在を美しく彩る。

恋愛中毒

1998 角川書店 山本 文緒

 

「私は好きな人の手を強く握りすぎる」離婚を経験した30過ぎの水無月が、弁当屋でのバイト生活のさなか、好きだった芸能人に出会う。そこから始まる女の熾烈を極める恋という名の戦いの物語。

依存体質の人の話かな?豪胆な男性はかっこいい。女だったら一度くらい遊ばれたい(かな?)主人公と母親との関係が興味深かった。母娘のテーマの本があった気がするが、読みたい。

家族八景

1975 新潮社 筒井 康隆

 

相手の心を読める七瀬が家政婦として働き、その家に渦巻く感情をつぶさに観察する。8軒の家が短編形式になっている。

テーマの「ぶっ壊れた家族や家庭」はスキなのだけど、、、うーん、ぬるい?主人公を含め、典型的な人物像でリアリティがない…。アンリアルなまでのぶっ飛んだ個性があった方がより、リアルになる気がするのは気のせい?事実は小説よりもアンリアルなり。

ドナウよ、静かに流れよ

2003 文芸春秋 大崎 善生

 

邦人男女、ドナウ川で心中。33歳の指揮者と19歳の女子学生。この事件が内包する違和感が筆者の心をとらえ、取材を開始することになる。心に迫るノンフィクション。

きた。きつかった。たぶん、くる人にはくると思う。若いときに読まないでよかった。

夜明けまで1マイル―Somebody loves you

1998 集英社 村山 由佳

 

大学生でバンドにせいを出す涯は大学の教師のマリコと深い仲になる。マリコは既婚者であり、いわゆる不倫の関係であるが、涯にとっては恋以外のなにものでもない。バンドのボーカルであり、涯の幼馴染の通称“うさぎ”はそれを心配するも不器用で、自分は恋を成就させることができない。バンドと恋と友情。青春ど真ん中ストーリー。

はじめの方はチープな少女小説のような印象。だが、少女小説よりも突っ込んだところまで描くことができるため、体を合わせることが悲しさを演出している。気付いたときには不器用なヒロインに没入していました。やっぱり女の子の方がよく描けているのかな。

海を抱く―BAD KIDS

1999 集英社 村山 由佳

 

高校生の物語。サーフィンにとりつかれている光秀と、副生徒会長の恵理。自分の性的衝動が抑えられない恵理はあるとき、誰でも相手にするという光秀の家に押し入り、関係を迫る。性、恋、家族、性などのテーマを盛り込んだ青春物語。

すごい分かりやすいキーワードを盛り込んだストーリーになっているために、典型的になっている感がなくはない。全体の物語としてはキレイにまとまっている、というか、まとまってしまっている。中学生や高校生が読んだら衝撃をうけるのかもしれない。