ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学

1992 中央公論社 本川 達雄

 

動物の鼓動の間隔は体重の1/4乗に比例する、というところから始まる。非常に読みやすく分かりやすい。“大きさ”を切り口にして、動物の神秘的で効率的な設計に迫るベストセラー。

自然が作り出したものは深遠で計り知れない。おもしろいことが山のように書かれていた。「動物はなぜ車輪を採用しなかったのか?」などの率直で素朴な疑問にも丁寧に答えている。生物が進化によって、さまざまな問題をクリアーしてきたということもわかる。

その他の動物を比べることで、人間を相対的に見るような示唆的なことも書かれている。好きな歌の歌詞に「野生を忘れると、世界が狭くなってしまう」とあるが、世界を覆いつくした人間という動物を折に触れて相対的に見ないとダメだなぁ~と思った。まあ、その人間にも、世界の片隅で細々と生きる日がいつか来るのであろう。

火火

2006 高橋伴明 田中裕子, 田中裕子, 窪塚俊介, 黒沢あすか, 池脇千鶴, 遠山景織子

2006 高橋伴明 田中裕子, 田中裕子, 窪塚俊介, 黒沢あすか, 池脇千鶴, 遠山景織子

 

神山清子は陶芸にのめりこむあまりに同じ陶芸家の旦那にも逃げられるが、ついに昔の信楽焼を再現させるに至り、それまでなかった「女性陶芸家」の地位を確立する。息子は陶芸の道に進みかけるが、白血病を発病する。それから清子は骨髄バンクの立ち上げに奔走することになる。強い個性を映像化した真実の物語。

池脇千鶴が出ていたのはラッキーだった。演技も大好きな感じ。たとえるなら、同年代の役者さんよりも上に下に2オクターブ幅広い演技と、12音階に収まらない48音階くらいの“ドの1/8度上の音”みたいなものを出している感じ。しかししかし、それが霞むほど、田中裕子さんはスゴすぎる。圧倒的である。ストーリーはちょっとブナンともいえない感じだが、田中裕子さん一人でスゴイ作品になったのではないだろうか。

陶芸品は美しい。涙が出るものもある。人が少なくて静かなのも好きで、渋谷の静嘉堂文庫美術館にもちょろちょろ通っていた。韓国の青磁のふるさとにも行って来た。人間が完全にはコントロールできない火が作り出す質感は神秘を感じる。美しい陶器をもっともっと見てみたい。

テーマが陶芸かと思いきや、それと同じくらいの割合で白血病だった。「世界の…」よりもリアルに描かれているので、その辺もお勧めである。“昔、骨髄バンクは存在しなかった”という当たり前の事実が驚きである。ドナー登録はぜひしましょう。

アラバマ物語

2006 ロバート・マリガン グレゴリー・ペック, グレゴリー・ペック, メアリー・バダム, フィリップ・アルフォード, ロバート・デュバル

 

1930年代、アメリカ南部のアラバマ州の小さな町。男やもめの弁護士、アティカス・フィンチは息子ジェムとその妹スカウトと平和に暮らしていた。近くの家には“ブー”と呼ばれる怪物のような男が住んでいると、恐れられている。兄弟は家にこもりきりの“ブー”を恐れると共に、さまざまな想像をめぐらせている。あるとき、アティカスは罪に問われている黒人の弁護を引き受けることになる。それは一家を危険にさらす結果になってしまう。黒人差別があたり前の地域ならでは出来事だ。ストーリーも重要だけど、子供の純粋な視点や感受性など見逃せないシーンがちりばめられている。これは間違いなく不朽の名作!!見てない人はぜひ見てほしい。

10年くらい前に見て、ひどく感動したが、再び見たくなった。大好きな大好きな映画の1つだ。人間の汚さや社会の不完全が、人間の高潔さともにバランスよく描かれている。ノーブルという形容がふさわしいアティカスのゆるぎないフラットな考え方と正義感は好き。子役もすばらしいし、特に妹のスカウトの表情や仕草は好きだ。

今回改めて見ると、父を救うためにスカウトが熱弁を振るうシーンを好きになった。以前に見て一番心に残ったのは、友達を家に招いてステーキを振舞うシーン。友達がステーキにシロップをたっぷりかけるが、それをたしなめたスカウトが叱られる。それがアメリカだからなのか?アティカスの教育方針なのか?「お客様の食べ方に文句をつけてはいけない」という多様性を許容させる教育には驚いた。多様性といえば、アメリカではアフリカンアメリカンの血が入った大統領が生まれるかもしれない。日本はエスタブリッシュのおぼっちゃま首相。琉球人かアイヌ人か在日朝鮮人の血でもそろそろ入れた方がいいんじゃない?あ、マタヨシさんはパス。付録である人が「企業化したアメリカでアティカスのように自分の信念を貫くためには“アティカス社”が必要だ」と言っていたのはうなづけた。

それにしても父親をファーストネームで呼ばせるというのは憧れるなぁ~。アティカスは自分の中では永遠のヒーローだ。クラーク・ケントを彷彿とさせるお父さん。え?ローマの休日の人?!そかそか。しかし恥ずかしながら、「ものまね鳥を殺すには」という原題をしらなかった。原作も読んでみたい。

みんないってしまう

1999 角川書店 山本 文緒

 

山本文緒さんの12の短編集。言葉にできないような微妙な感情を短いストーリーで丁寧に描き出す。

すごかった。どれもこれも、すごかった。どれもこれも、痛い。「いつも心に裁ちバサミ」では軽く泣いた。って、これよんで泣く男ってマジキモイ。

『…四十五点の人生でよかったとよかったと笑ってあげられる。人様に誉められなければ充実しないような、そんな人生を否定してあげられる。』って「ハムスター」の中の一文だけど、ハッとした。

そういえば「裸にネルのシャツ」は田辺さんの短編で同じようなものを読んだことがある気がした。本はほとんど買わないけど、これは買うかもしれない。

へんないきもの

2004 バジリコ 早川 いくを

 

へんな生き物を1ページの文章と1ページのイラストで紹介している。文章は毒舌でフザケていて、おもしろい。また、写真だとエグそうな生き物もイラストだと美しくみえる。文章もイラストもフザけ具合にニンマリしてしまう。おすすめの一冊です!

図書館の本棚でたまたま蛍光色の本が目に付いたのでパラパラ読んでみると、ハリガネムシが書いてあったから、借りてみた。文章のタイトルとして、動物が簡単に説明されている。たとえば「最初から守りに入っている人生 ハリモグラ」とかフザけている。内容もカスザメの説明では「…待ちに待った獲物が通りかかると電光石火で丸呑みにするのだ。その間わずか0.2秒。ちなみに次元大介の早撃ちは0.3秒。次元より早いのだ。」と、これまたフザけている。カンザス州では進化論を教えなくなったという情報とか、クラゲの話が連れ込み宿の話で終わったり、説明に731部隊とかまで出てくる始末。けどプラナリアも出てきたし、海ほたるショウで海ほたるには電気がかけれているとか、「150度の高熱にも絶対零度にも、真空にも乾燥にも6000気圧もの高圧や放射線にも耐えられる」クマムシとか、ライバルの子供を生き埋めにして殺すメスのプレイリードッグの習性とか、ホホウと思う。アーイアイ、アーイアイのおさるさんが現地では「悪魔の使い」と呼ばれるほど怖い外見なんだってさ、、。

最後はツチノコについてのコラムが書かれている。ツチノコがキリスト教グノーシス派のイコンとして崇拝された「ウロボロスの龍」に似ているとか関係ないことが書かれていると思ったら、ユングの普遍的無意識が出てきて、西欧ではUFOなのに、日本ではツチノコというのはお粗末だとか言い出す。とりあえず、いろんな意味でおもしろい!!

光射す海

1996 新潮社 鈴木 光司

 

入水自殺を図った女性が精神病院に運ばれてくる。その女性は妊娠していることがわかるが、問いかけても反応がない。彼女に秘められた過去とは…。運命に翻弄される人生を描いた心にしみる傑作。

きた。30ページくらいで、すでに鳥肌がたっていたが、最後までその興奮は続いた。人生とその交わり。弱さ。強さ。過ち。痛み。いたわり。救い。すべてのエッセンスが絶妙に溶け合い混ざり合い、人間という脆く矛盾に満ちた存在を美しく彩る。

ドナウよ、静かに流れよ

2003 文芸春秋 大崎 善生

 

邦人男女、ドナウ川で心中。33歳の指揮者と19歳の女子学生。この事件が内包する違和感が筆者の心をとらえ、取材を開始することになる。心に迫るノンフィクション。

きた。きつかった。たぶん、くる人にはくると思う。若いときに読まないでよかった。

ブスの瞳に恋してる

2004 マガジンハウス 鈴木 おさむ

 

「森三中」の大島さんとの結婚した放送作家の破天荒な結婚生活を洗いざらいブチまけた痛快エッセイ。結婚の経緯から、2年後の生活までが綴られている。超シモネタ系のエピソードから胸キュンエピソードまで満載で、結婚の定義を揺さぶる問題作!!

初めから大爆笑した!!さすが売れっ子劇作家という感じ。けど、ほんとに可愛いなぁ~と思うシーンもいろいろあった。最後は温かい気持ちになる。あまり結婚というものに良いイメージがわかなかったけれど、こういう結婚生活ならばいいなぁ~という憧れすら沸いた。う○こを見せ合えるそんな温かい家庭を作りたいと思いました(←ちょっとズレちゃってる)

ビルマの竪琴

2001 市川崑 中井貴一, 中井貴一, 石坂浩二, 川谷拓三, 渡辺篤, 小林稔侍, 浜村純

 

終戦直前のビルマ。水島が所属している小隊は物資も尽きてタイに逃げ延びようとしている。精魂が尽きている小隊を元気づけようと元音楽教師の隊長は隊員に歌を教えている。水島は自分で作ったビルマ風の竪琴でその歌に伴奏をつける。小隊はタイの国境直前で日本の降伏を知り、小隊も降伏する。

その後、イギリス軍の要請で水島のみ近隣で抵抗を続けている日本軍の降伏の説得に行き、小隊の他の者は800キロ離れたウドンという土地にある捕虜収容所に徒歩で移動する。全員残らず日本に帰したいと願う隊長は水島に任務終了後には必ずウドンに来いと言う。水島は結局、説得できずに、そこの日本軍は最後まで戦うことになり、水島は戦いに巻き込まれるが運良く生き延びる。

僧侶に扮した水島はウドンに向かって歩き始める。しかし、その途中には、いくつもの野ざらしにされた日本兵の屍を見る。水島は屍に目をそむけて逃げるように走りさるが…。戦後のアジアを舞台にした熱い熱い人間のドラマ。

久しぶりに泣き度が高い作品だった。たぶん泣きポイントではない初めの盛り上りですら泣いてしまった。大人のための童話と監督が言っていたが、原作はもっとファンタジーっぽいということ。けれど、映画はリアルな部分もあわせ持っていて、心がえぐられる。セルフリメイクの作品でカラーで撮りなおした作品ということだった。キャストも良いし、おばあちゃんの役の人は天才的だった。

とりあえず首相は靖国神社とかの施設じゃなくて、海外行って祈ってきやがれ!と思った。とは言うものの、以前は自分の旅のテーマの一つだったのにすっかり忘れていた。いずれにしろ日本人だったら一度は見たほうが良いと思う。