魂がふるえるとき

2004 文芸春秋 宮本 輝

 

「いい小説をよみたいのだが、宮本さんはどんな小説を進めるかと、たまに若い人から聞かれるときがある。そんなとき、私は若い人がとっつきやすく、なおかつ小説としてさまざまな深みを蔵したものを勧めるのだが、(略)最近になって、その青年の好みに合わなくても、途中で読むのを放棄しようとも、私は意に介さず、いくら勧めても読む人は読むであろうし、読まない人は読まないであろうと考えて、私の好きな小説を教えてあがればそれでいいのだと思うようになった。」

宮本先生が勧める16の日本文学の短編。

飛ばしたのもあったけど、面白いものもあった。永井荷風などの日本文学はまだまだ私には早い気がした。読んでみたかった国木田独歩の作品が入っていたが、やはり波長が合う気がした。また文語調のリズムも素晴らしいと思うに至った。

ダ・ヴィンチ・コード

2006 角川書店 ダン・ブラウン, 越前 敏弥

 

深夜、ハーバード大学の宗教象徴学教授であるロバート・ラングドンの下は、フランス警察に起こされる。ルーブル美術館に同行し、美術館館長ジャック・ソニエールの奇怪な遺体に遭遇する。そこには謎のメッセージが残されていた。ソニエールは何を伝えようとしていたのか?太古からの秘匿されてきたキリストの謎にせまるミステリー。

常に謎が物語を引っ張り、すらすらと読める。実在しただろう使徒の人間的一面には興味を引かれる。半分くらいは真実であってほしいなぁ。ストーリーとは関係ないけど、あとがきの奥様への賛辞が一番印象に残ったww

現代アフリカ入門

1991 岩波書店 勝俣 誠

 

現代アフリカを解説した書籍。植民地vs独立vs連邦制化、社会主義vsイスラーム主義vs民主主義、汚職vs援助vs貧困、農業vs工業。大きな流れをさらっている。

文章は分かりやすかったが、構成がもう少し工夫できたら、頭の悪い私でも整理しやすかったかもしれない。全体としては一本筋が通っていて、良い印象を持った。

アフリカは人類の故郷であり、民族的にも多様性に満ちている。一番○○な民族がいる割合が高いのではないだろうか?しかし、今なお貧困にあえいでいる。カメルーンの女性研究者によると、以下の3点がアフリカの開発を阻害しているということだ。①科学的好奇心が薄い。②大規模に使用されている文字がない。③広域に渡る同朋意識が希薄。植民地化や貴金属を巡った部族間での代理戦争などの要素も多分にあると思うが、好奇心と公共心が希薄というのは大きいと思う。たが金融にして狭い部族間でのシステムが機能しているなど、西欧と異なるシステムを築いていく道を見つけるのがよいのか。

「この大陸の自然、歴史、文化は限りない多様性を秘めている。開発援助という名を借りて、もっぱら「北」の先進工業国の経験から引き出された市場原理による近代化を、あたかも地球唯一の普遍的な社会・経済のモデルであるかのごとく錯覚し、この大陸に対してそれを押し付けようとするならば、地球上のすべての人々が学び、わかち合うことのできるこの大陸の豊かな多様性は見えなくなってしまうであろう。」

斜陽 (1950年)

新潮社 太宰 治

 

『もう一度お遭いして、その時、いやならハッキリ言って下さい。私のこの胸の炎は、あなたが点火したのですから、あなたが消して行って下さい。私ひとりの力では、とても消す事が出来ないのです。とにかく逢ったら、逢ったら、私が助かります。万葉や源氏物語の頃だったら、私の申し上げているようなこと、何でもない事でしたのに。私の望み。あなたの愛妾になって、あなたの子供の母になる事。』

没落貴族の家庭を舞台にした悲しい物語。

他の本が読み進まないからと、手にとったら、グイグイと読まされてしまった。読みやすく美しい文体が気持ちよい。

職業としての学問

1980 岩波書店 マックス ウェーバー, Max Weber, 尾高 邦雄

 

マックスウェーバーが晩年にミュンヘンで行った講演の日本語訳である。学問を志すものの心構え、学問や教師の意義やあるべき姿などが語られ、イデオロギーを欲しがちな若者を叱咤する。

学問の作業に一心に従事していると、それとは関係ないことをしている時に「霊感」によって、ブレークスルーを発見する。それはビジネスにおいて芸術においても同じである。---宗教が「世界には意味がある」ということを前提としているのと同様に、各学問も何かしらの前提がある。---学問の職分はトルストイの言葉を借りると「それは無意味である。そぜならそれはわれわれにとってもっとも大切な問題、すなわちわれわれは何をするべきか、いかにわれわれは生きるべきか、にたいしてなにごとをも答えないからである」と。

音符と昆布

年度: 2008 国: 日本 公開日: 2008/1/26

 

フードコーディネーター・モモは、鼻に障害があり、匂いを感じない。そんなモモに今まで聞かされていなかった姉・かりんが訪ねてくる。挙動不審のかりんはアスペルガー症候群だという。二人は何かを共有することができるのだろうか。

池脇千鶴さんファンなのでマイナスなことはあまり書きたくはないが、これはちょっと悲しかった。安っぽい演出は高級魚を化学調味料で調理しているような感じさえした。予算の都合か日程の都合だったのだろうか、残念な内容である。

存在の耐えられない軽さ

1998 集英社 ミラン・クンデラ, 千野 栄一

 

優秀な外科医トマーシュの元にテレザは汽車に乗って飛び込んだ。アンナ・カレーニナを携えて。チェコの政治状況を織り交ぜて進む恋愛小説。

ちょっと忙しくて集中して読めなかったのが悔やまれる。政治が絡んでくるストーリーは好きだ。著者の独白的な哲学が語れるのも好きだ。戦争と平和みたいだ。

読書案内―世界文学

1997 岩波書店 サマセット・モーム, 西川 正身, William Somerset Maugham

 

以下にかかげる書物は、あなたが学位をとる助けにもならなければ、生計を立てる役にもたたないであろう。船をあやつることを教えてもくれなければ、動かなくなった自動車をふたたび走らせることを教えてもくれないであろう。そのかわりに、あなたがより充実した生活を送ることには役立つであろう。」

膨大な文学の前で途方に暮れている人への読書指南。人物に主眼を置いた作品の解説が面白い。「とばしてもよい」というのが目からウロコだった。私も時に飛ばしていることがある。モーム氏のようにまったり読むのが理想だけど…。

「朝、仕事をはじめる前に、わたくしは、科学書なり、哲学書なり、新鮮で注意深い頭脳を必要とする書物をしばらくよむ。それによってよき刺激をうけて、わたくしはその日の仕事にとりかかる。その後、仕事がおわり、きもちはくつろぐが、はげしい努力を必要とする精神活動はやりたくない気分になっているとき、わたくしは、歴史、随筆、批評、ないし伝記をよむ。夕方になると小説を読む。以上のほか、よみたい気分になったときの用意に、詩集を一冊いつも手近かなところにおいておく。よる寝るときには、どこからよみはじめ、どの一節のおわりでやめようと、少しも心をかき乱されることのない書物を一冊、といっても、めったに見つからないが、そういった書物を枕元に用意しておく。」

田園交響楽

1952 新潮社 ジッド, 神西 清

 

無知で動物のようだった盲目の少女ジェルトリュードは、牧師に拾われて育てられ、美しく知的に成長をとげる。しかし開眼手術の後に自殺を図るのである。美しい文章でつづられた悲劇的な物語。

翻訳が素晴らしいのか、文章が表現がたまらなく好きである。もっと長いものを読みたい。しかしなぜ、ジッドの物語では自殺するのだろう。キリスト教徒なのに…。

「移動文化」考―イスラームの世界をたずねて

1998 岩波書店 片倉 もとこ

 

片倉もとこ先生のイスラーム文化でのフィールドワークをまとめた本。アラビア人の海の民としての一面。移動というものに対する考え方。興味深かったのはバンクーバという異国に住むムスリムの生活の分析だ。同化しようというグループと、厳格にシャーリアを守ろうとするグループ、その中間に位置するグループ。その3グループの分析から、世界中の民族の共生についての提言や、これからの社会のあり方へ話を広げている。片倉哲学がつまった良書。

素晴らしかった。ますますファンになった。民族の共生、国家という枠組みの限界。自分が行き当たっている疑問に答えてくれている気がした。国家の品格や、文明の衝突よりも、本書を読むべき!手元に一冊持っておこう。