対岸の彼女

2004 文藝春秋 角田 光代

 

「もしあたしが無視とかされても、アオちんはべつになんにもしないでいいよ。みんなと一緒に無視しててほしいくらいだよ、そのほうが安全だもん。だってあたしさ、ぜんぜんこわくないんだ、そんなの。無視もスカート切りも、悪口も上履き隠しも、ほんと、ぜーんぜんこわくないの。そんなとこにあたしの大切なものはないし」

葵はいじめが原因で転校した。新しい学校でナナコに出会う。クラスのどのグループにも属さずにみんなに笑顔をふりまく。そんなナナコを葵は好きだったが、そのナナコもしまいにはイジメの対象になる。けれど、二人は校外で密かに会っていた。
それから月日が流れ、家事に閉塞感を抱く小夜子は、大人になった葵・楢橋葵に出会う。葵は女性経営者として会社を切り盛りしていた。小夜子は仕事を通じて自信を取り戻していくが…。過去と未来の物語が同時に進み、葵の過去が明らかになっていく。

守ってあげる。強く肯定してあげる。親から受けて当然のものが与えれない人もいるのだ。がっくりする。自分を殺すか親を殺すかというところまで行き着くのだろうか。自分がそういう子どもに会ってもチャンと受けとめる自信がないかも、とか思うと、ますますがっくりする。“高校3年間一人で弁当を食べてた”と告白されたことがある。きっとその言葉にはその言葉以上の想いが含まれていたのだろうと思う。今の自分には何ができるだろう。この物語は大好きです。

メゾン・ド・ヒミコ 通常版

2006

 

自分と母を捨てたゲイである父親。沙織はその存在さえも否定して生きてきた。ある雨の日、彼女が働く塗装会社に春彦という青年が訪ねてくる。父の恋人である彼は、沙織の父が癌で死期が近いと言い、父の営む老人ホームを手伝わないかと誘う。“メゾン・ド・ヒミコ”—-そこはゲイのための老人ホーム。犬童一心監督、渡辺あや脚本による第2弾!!

前作のジョゼ…が良すぎたので、ちょっと躊躇していたけど、早く見ればよかった。家族、居場所、ゲイ、老人、恋愛、性愛、、、テーマがこれでもか!ってほど詰まり過ぎているが、すべてを消化しきっている。すごすぎる。

秘密

2001 文芸春秋 東野 圭吾

 

「世の中には、素晴らしいものが本当にたくさんあるのよね。そんなにお金をかけなくても幸せになれるものだとか、世界観がかわっちゃうものだとかが簡単に手に入る。どうして今まで気がつかなかったのかなと思っちゃう」

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの直子だった。直子として送ったものとは違う人生を切り開いていく妻に、夫・平介はとまどいを隠せない。切ない、そして愛情あふれるファンタジー。

いやー。せつねー。せつないの大すきときめきときす。正直、何となく手にとったので、あまり期待をしていなかったけど、こんなに泣けるとは思わなかった。3本くらい軽くとられた。最後のページでは、ともえ投げで場外までぶっ飛んだ。「目に見えるものだけが悲しみではない」など感情のディテールをうまく捕らえた言葉もあったし。ファンになりますたたたたたまらん。

かもめ食堂

 

フィンランドのヘルシンキで日本食堂をはじめたサチエ。サチエは図書館で知り合ったミドリを食堂のスタッフに迎える。お客が来ない日が続いたが、サチエたちの温かな心がこもった料理は、次第に人々をひきつけ始める。

荻上直子監督の映画は二作目だが、気持ち良かった。映像の清潔な質感が心地よい。キャストも良かった。ドーンとそそり立つような主張はないけど、小さいことを積み重ねていく大切さが心に残る。久しぶりにドップリと浸れた。

機動戦士ガンダム 第08MS小隊 Vol.01

2000 神田武幸 檜山修之, 井上喜久子, 結城比呂

 

連邦軍の“シロー”は宇宙空間を移動中にジオン軍のロボットと遭遇し交戦する。自分、敵のロボットが大破し、ジオン軍の女性パイロットの“アイナ”共々遭難してしまう。二人は生還のため協力するが、お互いへの信頼感を深める。救助されたのち配属されたアジア戦線では、シローとアイナは敵同士として対峙することになる。主人公に理想を語らせることにより、戦争の不条理さをより浮き立たせた作品。

ガンダムの歴史をねじ曲げなければならないのであれば、こんな作品は必要ない!!戦闘シーンも矛盾点が多すぎる!!と、ガノタのみなさまが、言っているようですが、ガンダムを非国民なみに知らない自分にとっては良い作品でした。

このBASARA的なストーリーはやっぱりイイ!再会のシーンとか何回も見てしまった…。しかし食い足りない。最後のノリスかこよす。ノリスとアイナの最後のシーンではアイナかこよす。こんな強さをもった女性には惚れるわ。こういうテーマがシンプルな作品に感動できて嬉しい。

君に届け 1 (1)

2006 集英社 椎名 軽穂

 

陰気な雰囲気のせいで怖がられてしまう“貞子”。でも本名は爽子。自分と違う爽やかな風早に憧れを抱きはじめる。

妹のお薦めでショウガナク読みました(と言っておく)まあ、さすがに学園ものはキツイだろうと思っていたが、いや、もう、これがド真ん中!クラスの端っこにいるのだけど、真摯に生きているっていうヒロインがドつぼです。友情もいいし、なんかウジウジしていないストーリーがイイ!悶々状態に突入する伏線を鮮やかに裏切っていく。これはドラマ化か映画化するでしょう。早く次の巻でないかなぁ~。

オアシス

2004 ソル・ギョング

 

前科3犯の男・ジョンドゥが出所するところから物語が始まる。始終、落ち着かない様子のジョンドゥは、社会に溶け込めていないことがすぐに分かる。家族のものに戻るが決して歓迎されていない。そのジョンドゥは同じように家族に疎まれている脳性麻痺の女性・コンジュに出会う。それから二人の物語は始まるのだった。

脚本も演出もすごい!!二人の演技もスゴイ!超問題作であることは間違いない!このテーマでエンターテーメントとしてもまとまっている。こんな映画が作れる韓国の映画界の底力には脱帽。参りました。

久しぶりのゲキ嗚咽系。打ちのめされる。「純愛」とか安易でキレイな言葉で片付けて欲しくない。何度か殺意が沸いた。社会の固定観念や先入観と対峙するような作品には、ゲキ弱いことを改めて認識。悔しくて泣いて、悲しくて泣いて、うれしくて泣く。映画の半分くらい泣いてた。ぜひ見て欲しいけど、、、どうなんだろう。一人で見るのがいいかなぁ。

トルコのもう一つの顔

1991 中央公論社 小島 剛一

 

冒頭、「キリスト教徒でないものがナザレのイエスのことをキリスト(救世主)と呼ぶのは不謹慎だ」という文が出てきて、ハッとする。無知とは怖いものである。

どういう意図でその言葉を発したかよりも、どういう意味で受け取られるかが重要である。ことに文化や宗教についての無知は、人のアイデンティティにかかわる問題で非常に重大だ。私が自分の無知に恐怖する原因もこの辺にあるのかもしれない。

この本は、小島氏の十数年にも渡るトルコに住む民族の言語研究のフィールドワークの軌跡でもあるが、迫害された民族のアイデンティティに迫った物語でもある。全編に渡って、個々の民族への愛情に溢れている。

はじめはトルコ人の親日的な様子や旅人への深い愛情が描かれているが、それは20ページも続かない。クルド人のことになると“虫けら”“追剥”と蔑視し、温和な態度を一変させる。最近は変わってきているようだが、当時は「トルコにはトルコ人しかいない」「トルコ語しか存在しない」ことになっているというのである。トルコ内の言語はすべてトルコ語の方言で、チンギスハーンもトルコ人なら、フィンランド人もトルコ人ということらしい。

そんな中、氏は各民族の言葉を吸収し操り、多民族国家であるトルコを縦横無尽に闊歩する。それは言語の研究にとどまらない。出会った民族と近い人々との橋渡しをしたり、自分のルーツが分からない民族の祖先を、彼らが話している言葉から探りだす。ルーツを知るということは人にとって非常に重要なことであると思う。また危険を顧みず、彼らの文化を尊重する崇高な姿勢は胸を打つ。目頭が熱くなるエピソードも一つや二つではない。アレウィー教のことも初めて知った。

10年以上前の話だが、本質はあまり変わっていないのではないだろうか。ケマル・アタチュルクが好きだったけど、、、彼が親日家だったのは、もしかして、アイヌ人の虐殺などの単一民族化を推し進めた日本を参考にしたかったのかな、、、とか思ってしまう。アウアウ。

ぼくらの 1 (1)

2004 小学館 鬼頭 莫宏

 

夏休み――自然学校にやってきた15人の少年少女。
「きみたち、ゲームをしないか?」
ココペリと名乗る謎の人物と、ゲームの契約を結ぶ。
しかし、この時点ではゲームのルールを知らなかった。

地上に1体の敵が現れる。その敵と少年少女が操作するロボットが戦闘する。戦いに負けたり、勝負がつかず48時間経過すると、地球は破壊され、全人類のみならず地上の全生物が死滅する。

ロボットの操縦者として、事前に契約した者の中から1名が選ばれる。ロボットは人の生命力で動く。一戦闘する代わりに、操縦者の命を奪う。

何を守りたいか?
何のために生きるのか?
何のために死ぬのか?
何のために殺すのか?

生と死、命について真正面から描いた作品。

ロスト・イン・トランスレーション

 

CMを撮るために来日したハリウッドのアクション・スター。夫に同行して来日して、ホテルに取り残されたアメリカ人女性。東京でさまよう二人の想いは自然に惹かれあう。淡い恋、そして愛情の物語。

音楽や色や台詞もよい。気持ちを出さない二人の演技もいい。日本もフェアに描かれていると思う。ふんどしはしてなかったし、出っ歯じゃなかったし、刺身がお皿から飛び上がることもなかった。ヒロインのメイクや肉感的なプロポーションもたまらんw

“テンション”などを連呼するシーンは外国人がクスリと笑うのだろうか?日本語を良く知っているなぁと驚く。それに英語は訛っていては使い物にならんなぁ…と、、、がんばろ。日本って韓国並に英語が通じない。

それにしても、、、ぜづね。せつね。切なすぎ…。何回も見直したし、気持ちわかりすぎし。こういうのって引きずる。たぶん男がw。(by ヒキ ずり男)

ふと。「みんな行ってしまう」(山本文緒)のドーナツのお父さんを思い出す。たしか「もっと別の愛情を注げたのに…」という文があった。ボブは最後に愛情を注いだんだ。きっと。