アタシは生きる!! AV女優22人の人生

2004 宝島社 中村 淳彦

 

「ホントあり得ないくらい貧乏だった。給食費とかまったく払えないくらいで、ガスとか電気はいつも止められてたよ。冬とかマイナス十何度にもなるから、寒くて凍えそうで毎日死ぬんじゃないかと思ってたほど。食べる物が全然ないときもあったくらだから。」
「私を刺したのは母親にとって、自殺みたいなものだったのかもしれない。私と母親はすごい似ているんです。だから私と全然違う、全然似ていない妹は可愛がられて、私に厳しくあたったんだと思う。」
「そうそう、そのときはいつも以上にメチャクチャしてて、一人は片足を車で轢いて潰してたんです」
「テレクラは山に捨てられたのを最後にやめたから、今度はヘルスに勤めたの」
「でも、どうしてもママに自分を認めてもらいたかった。だから勉強は一生懸命したよ。褒めてもらえるものはそれしかなかったから」
「アニメやゲームはなんでも知ってなければならないんで、撮影の一週間前から猛烈にキャラの勉強しなきゃいけないんです。撮影前にアニメの一話から最終話までビデオ借りてきて、コミックも全部読んだり、とにかく時間がかかるんですよ。で、使えそうな言葉に便箋をつけて暗記するんです。」

22人のAV女優へのインタビュー。彼女たちは激動の半生を赤裸々に語る。

面白いブログを探していたころ、AV女優のブログにたどり着いた。その有名女優は普通の感覚を持っていたように思えた。この人がなぜAV女優という職業を選ぶにいたったかが非常に疑問に思って買った書籍だ。

彼女らの半生も業界について、差し挟まれる筆者の考えなども非常におもしろかった。創作でないかとも思うような激しい虐待については、ここまで詳しく書いてある本を読んだことがなかったので、すごい参考(←なんの?)になった。早く逮捕してくれ!っていう人や、親などもちらほらいる。悲惨な環境も多いが同じ環境があったとしても違う人生を歩んでいる人は多数いるだろう。そう考えるとAV女優という特異な職業につく人はやっぱり特異、心的な疾患を持っていると思う。

AV女優については、たとえ売れてお金が稼げたとしても自分の中で職業を肯定するのは非常に難しい。心身ともにあまりにもリスキーな選択なので、どんなにAV女優という職業に対して肯定的に書かれている書物があったとしても、それを信じてはいけない。アイドルだって体を売っているというのだから同様である。それにしても濃いい一点の無駄のないフラットなインタビューは素晴らしかった。この人のインタビューは一通り読んでみたいな。AV女優の書籍も行ってみるかな…。

沈黙

1981 新潮社 遠藤 周作

 

「翌日、拷問は以下のようにして始まった。七人は一人ずつ、その場にいるすべての人から離れて、煮えかえる池の岸に連れていかれ、沸き立つ湯の高い飛沫を見せられ、恐ろしい苦痛を自分の体で味わう前にキリストの教えを棄てるように説き勧められた。(略)しかし全員、神の恵みに強められていたため、大きな勇気を得て、自分たちを拷問にかけよ、自分たちは信奉する教えを絶対に捨てぬと答えた。」

江戸時代、幕府がキリスト教を禁止する中で、決死の思いで日本に渡航した宣教師の物語。布教する中で拷問を受ける人々を見て、彼が感じたこととは?

熱心に布教に家に来るキリスト教系の信者がいた。普段は無視していたが虫のいどころがわるく、戸口に出ていじわるな質問をしたことがある。「韓国ではほとんどキリスト教に改宗したのに、なぜ日本ではそのようにならないのか?」答えて曰く「風土の違いですかね。韓国ではコンビニのように教会がありますよ」と。そんなに違う風土なのか?との疑問が沸いた。しかし、現実に普及しない。某書によると1%未満ということだ。不思議な現象に思える。

そして“沈黙”。この言葉は物語の中ではあまりにも重い。また、人々のために生きるとはどういうことなのか?その中でぶち当たるキリスト教の根源的な問題。物語の運びも素晴らしく、鬼気迫っている。キリスト教などは置いておいても、読むべき小説だと思う。

ソラニン 1 (1)

2005 小学館 浅野 いにお

 

音楽のために好きでもないバイトをする種田。彼と同棲する芽衣子はOLをして生活を支えていた。けれど、ある日芽衣子は会社を辞めてしまう。世界との違和感を拭えないまま生きていく二人を描いた作品(のように思う)

爆発的に良かった☆

自負と偏見

1997 新潮社 オースティン, 中野 好夫

 

「エリザベスの結婚観が、すべて自分の家の経験から推して、つくられたものだとすれば、結婚生活の幸福や家庭の楽しみについて、あまり愉快な想像をもてなかったのは当然であろう。父親というのは、若さと美貌と、それにたいてい若い美人がもっているに決まっている表面だけの朗らかさに惹かれて、結婚してしまったのだった。ところが、その妻は、知能も弱く、心もさもしいとあっては、ほんとうの愛情は、結婚するとまもなくさめてしまった。尊敬だの、敬意だの、信頼だのというものは、永久に消えて、彼が考えていたような家庭の幸福は、完全にくつがえされてしまった。だが、ただミスター・ベネットという人は、自分の無思慮からまねいた失望のかわりに、世上よくある例だが、己が不徳、己が愚かさから不幸に陥っておきながら、その慰めを、ほかのいろいろな快楽に求めるような、そんな性質の男ではなかった。彼は、もっぱら田園、そして本を愛した。そしてそういう趣味から、彼の主な楽しみは生まれていた。妻から受けているものといえば、彼女の無知と、そして愚かさが提供してくれる面白さというほかには、ほとんどなかった。」

イギリスの田舎町、五人姉妹のベネット家の隣に、青年紳士ビングリーが引越して来る。温和で美しい長女ジェーンと才気溢れる次女エリザベス、そして快活なビングリーとその親友で気難し屋のダーシー。ところが、エリザベスが高慢で鼻持ちならぬ男と考えていたダーシーが、実は誠実で賢明な紳士だと判った時…。二組の恋の行方と日常を鋭い観察眼とユーモアで見事に描写した名作。

↑コピー。モームの十大小説。大した事件も起こらないような恋愛物語ではあるが、いやはや面白かった。歯に衣着せぬ人物評には笑ってしまうし、長所と短所をあわせもった登場人物たちも魅力的で本当に生きているかのよう。ドップリと世界に浸れる。ダーシーかっこいい。エリザベスもたまらん。岩波はダメで河出がいいらしかったが新潮を読んだ。

世界文学全集〈第3〉赤と黒 (1965年)

1965 河出書房新社

 

身分は低いが野心を持った美しい主人公ジュリアン・ソレルは、その頭脳の明晰さを買われて町長・レナール家で家庭教師として雇われる。やがて、ジュリアンはレナール夫人と恋におちる。さらにパリの神学校に行き、大貴族のラ・モル侯爵の秘書にまで上り詰めるが、そこで起きる事件によって出世の道は閉ざされる。スタンダールの代表作。

モーム10選に入っていたから読んだが、素晴らしく面白かった。気持ちよかった。

アメリカひじき・火垂るの墓

1972 新潮社 野坂 昭如

 

「アメリカひじき」「火垂るの墓」を含む野坂氏による6つの短編集。短編といってもいいのかと思うような重さ深さ。

実は「火垂るの墓」は映画をまともに見たことがなかった。とにかく子供には弱い。読後は、やるせなさすぎてヒドいことになった。もうね、割腹して土くれに帰りたかった。「燃土層」「死児を育てる」「ラ・クンパルシータ」なども言葉に表せないものがある。それにしても「火垂るの墓」を映画化したのは素晴らしい決断だ。こんな形で子供が死ぬことは世界のどこでもあってはならない。ああ必殺思い出し泣きが発動…。三宮駅で黙祷をささげたい。

「移動文化」考―イスラームの世界をたずねて

1998 岩波書店 片倉 もとこ

 

片倉もとこ先生のイスラーム文化でのフィールドワークをまとめた本。アラビア人の海の民としての一面。移動というものに対する考え方。興味深かったのはバンクーバという異国に住むムスリムの生活の分析だ。同化しようというグループと、厳格にシャーリアを守ろうとするグループ、その中間に位置するグループ。その3グループの分析から、世界中の民族の共生についての提言や、これからの社会のあり方へ話を広げている。片倉哲学がつまった良書。

素晴らしかった。ますますファンになった。民族の共生、国家という枠組みの限界。自分が行き当たっている疑問に答えてくれている気がした。国家の品格や、文明の衝突よりも、本書を読むべき!手元に一冊持っておこう。

モリのアサガオ 7 (7) (アクションコミックス)

2007 双葉社 郷田 マモラ

 

”死刑”を行う刑務官になった及川直樹は、殺人犯・渡瀬満に憧れを抱いていた。渡瀬は殺された両親の復讐として10年の歳月をかけ周到に犯人を追いつめて殺したのだ。及川は刑務官として死刑囚とのふれあいを通して成長するとともに、渡瀬の内に眠る秘められた感情を共有するようになる。死刑制度を当事者の視点で描ききった衝撃の問題作!!

生とは何か?死とは何か?人生とは何か?殺人とは何か?死刑とは何か?ヘビーなテーマを多方面から描いている。これを読んだ後でも”すべての殺人を否定することはできない”と思った。死刑も殺人だけど、それを否定はしない。では、どの殺人が良くて、どの殺人が悪いか、などという明確な基準は、その存在すら分からない。いずれにしても死刑制度がある国の国民としては、ぜひ知っておくことだと思った。冤罪の問題は死刑制度のよりも警察の方に多くの問題があると感じた。最後に、死刑の執行というあまりにも重い任務を国民の代わりに負ってくださっている刑務官の方には感謝と敬意をしめしたい。

いのちの食べかた

年度: 2005 国: ドイツ=オーストリア 公開日: 2007/11/10 私たちの食べ物がどんな風に作られたのか、知りたくありませんか?

 

高速にベルトコンベアーを流れていくヒヨコさん。吊り下げられて処理されていくトリさん。朝食を食べる人。トマトさんへの農薬散布。裁かれるブタさん。分別されるリンゴさん。人工授精されるウシさん。昼食を食べる人。ピーマンさんの収穫。淡々とした情景が絶妙なカメラワークで写される。台詞も音楽もない。けれどアッというまに2時間がたってしまった。息をつく暇もないスペクタクルな食料生産の現場。

もっとエグい映像を作ろうと思えば作れたと思うが、邦題にある”いのち”ということに重点を置いていたのかもしれない。動物の一生が断片的に描かれている。どんどんパズルが組みあがっていくのだ。そして、できあがった絵に唖然とする。個人的にはマグロへの薬投与とかも見てみたかったなぁ~とか。映画の後にはメガマックを食べてみたが、やっぱり合掌してしまった。フォアグラとかラムの飼育の映像があったら食べられなかったかもしれない。前の回に小学生くらいの外国人がいたけど大丈夫だったのかなぁ~。まあ一日3度などの食事をとらずにいられないような食事ジャンキーの人は見ておいてもいいかもしれない。

デミアン

1951 新潮社 ヘッセ, 高橋 健二

 

シンクレールは二つの世界があることに気付いた。一つは神、善意、愛、尊敬などによって調和のとれている世界。一つは監獄、よっぱらい、強盗、殺人などの暗い暴力的な世界。シンクレールは学校に通い出すと、暴力的世界へと引きずりこまれた。そんな折、一人の少年が転校してきた。デミアンである。彼は他の誰とも違っていた。彼はシンクレールを暴力的世界から救い、新しい世界をシンクレールに教えるのである。

抽象的な気もしたけど、突いてほしいところを突いてくれている。どう考えても10代後半までに読むべき本だ。もう少し早く読むべきだったけど、読めたことだけでも良かったと思うことにしよう…。内容は宗教的に過激で、ヘッセが別名で出版したというのもわかる。トルストイ信者も出てくるし、トルストイが好きな人は好きなんじゃないかな。日本人も出てきてビックリ。いや嬉しいかったw。ヘッセは全部読まなくちゃ・・・。きっと、こんな未読の名著がゴロゴロと存在しているだろうなぁ。空恐ろしい・・・。