素晴らしい世界 1

2003 小学館 浅野 いにお

 

世界と調和しない人たちを描いた短編集。

ソラニンが好きだから読んだ。森のクマさん、バードウォーク、辺りが好きかなー。

研究者などを集めて社会常識を学ばせるってことを国がやろうとしているとか。研究者や小説家は世界との違和感がないと新しいものを生み出せない。って父ちゃんが言ってた。

死刑のすべて―元刑務官が明かす

2006 文芸春秋 坂本 敏夫

 

実際の死刑の現場、イメージ。死刑までの過程。死刑囚の立場。構成した死刑囚。裁判で演技する被告。死刑を反対する遺族。法務省キャリア官僚。荒れている刑務所の所長。いろいろな側面から書かれていて興味深かった。

以前「もりのあさがお」を読んだときに買った本。死刑は賛成の立場で読んだ。なんにしろ刑務官の負担が大きい。心の優しい人ほど負荷が大きい。あまりにも悲しい。死刑制度を支えてくださって、本当にありがとうございます。

世界経済入門

2004 岩波書店 西川 潤

 

…「追いつけ追い越せ」というキャッチアップ精神の下にナショナリズムが強調され、国民動員がはかられた。かつて、この精神は軍国主義の土台となった。戦前には、異なる意見は「非国民」としう言葉の前に弾圧された(しかし、最近もイラクでの日本人ボランティアらの拉致事件に際して、同じものの見方が「自己責任」と言葉を変えて、政府高官らから投げかけられたのをみると、いかに、この偏狭なナショナリズムが私たちのメンタリティの底に残っているかを痛感させられる)。…

世界経済の入門書…ってヒドイ説明。

1)21世紀初頭の世界経済
グローバル化と地域化
貿易の流れと自由貿易協定
多国籍企業と海外投資
国際通貨体制と円
2)地球経済の諸要因
世界人口はどうなる?
食糧問題のゆくえ
エネルギーと資源
工業化と公害・環境
3)世界経済の将来と日本
南北問題と地域秩序
グローバル化、軍事化と市民社会
新しい豊かさを求めて-日本の選択

網羅的かつ示唆的で大変良かった。Updateを繰り返しているようなので、次のものもぜひ読みたい。現行の経済体制を指示する立場でなく、世界をもっと鳥瞰している。

死海のほとり

1983 新潮社 遠藤 周作

 

今はキリスト教から離れて久しい主人公がエルサレムを訪れて、イエスの生涯を追うという物語。現在の旅行と、当時イエスに関係した人の物語が交互に語られる構成。「イエスの生涯」と表裏をなす作品とのこと。

遠藤周作のイエス観、ここに極れり、といった感じ。無力で線が細く恐れ怯えるイエスが徹底的に描かれている。以前に「パフォーマーだった」というイエス観を見たことがあるが、どちらかというと、この駄目駄目イエスの方が良い。もしかして、歴史上屈指の「痛い人」だったんじゃないかとも思ってしまうほど。だが、それがいい。

間違いだらけの経済政策 (日経プレミアシリーズ 25)

榊原 英資 日本経済新聞出版社 2008年11月

 

第一章、日本は世界一豊かな国で世界の先頭を走っているから、どの国かを真似して問題を解決することはできない。第二章、マクロ経済学でなく、確率的な複雑系。第三章、デフレの原因は民間セクターによる東アジア経済圏高構築のため。第四章、円高バブル。第五章、資源政策、農業政策の強化、消費者庁はいらん。第六章、日本を世界の金融拠点に。第七章、原子力、政府による経済コントロールの限界。

やっぱり橋本龍太郎氏の政策をもっと勉強したい。

留学

1968 新潮社 遠藤 周作

 

「こんな小さな美術館に入っても、ぼくらはすぐに長い世紀に亙るヨーロッパの大河の中に立たされてしまうんだ」

留学をテーマにした三部作。周囲の期待や自尊心の中でそれぞれの主人公が葛藤する様子が描かれている。

西欧文化が素晴らしいものだということは言うまでもないことだけど、それと同じく素晴らしい日本文化を比べることはあまり意味のないことだと思う。相互に影響されあっていけば良い。というのは頭では分かっているのだけど、実際に留学したら、そうも言ってられない状況に陥るのかもしれない。徐々に遠藤秀作の世界にはまってくるのを感じた。

イエスの生涯

1982 新潮社 遠藤 周作

 

幸いなるかな 心貧しき人
天国は彼等のものなればなり
幸いなるかな 泣く人
彼等は慰められるべければなり

田舎町に50代にも見える老けた30歳すぎの大工がいた。彼は突如、扶養する家族をすてて、新興宗教に入る。最後は弟子に売られて、扇動者として見せしめの刑に処された。その数年のできごとがその後の世界を左右している。それは死を賭して布教をした弟子たちの影響が少なからずあるだろう。しかし彼等はイエスの存命中は尊敬される職業にもついておらず、むしろ駄目人間だった。

『ふしぎなこの転換と変わりようは一体、どこから来たのか。「無力なる男」イエスの彼らに与えた痕跡がそうさせたというのだろうか。私たちがもし聖書をイエス中心と言う普通の読み方をせず、弟子たちを主人公にして読むと、そのテーマはただ一つ-弱虫、卑怯者、駄目人間がどのようにして強い信仰の人たりえたかということになるのだ。』

本書は、遠藤周作氏の聖書観、イエス観である。

2000年後の世界に影響を与えているイエスという人がどのような人であったか?というのは常に興味をそそられる。「誰かがわたしの服に触れた」という下りはすごい迫力があった。無力でもいいのだ。こんな感受性をもった素晴らしい人が実在してくれたことを祈るばかりだ。

椿姫

新潮社 デュマ・フィス, 新庄 嘉章

 

アルマンは貴婦人のような美貌をもった娼婦マルグリットに恋をし、愛を勝ち得る。二人は愛に満ちた平和な日々を送っているが、マルグリットは突然に彼の元を去り、もとの放蕩生活に戻る。憎しみにとらわれたアルマンは明に暗にマルグリットを攻撃するのだ。しかし、その後、彼はことの真相を知るのである。歌劇としても知られる悲しい恋愛小説の傑作。

こんなん読んでていいのだろうか。まあ、いいか。

日本史の誕生 (ちくま文庫 お 30-2)

岡田 英弘 筑摩書房 2008年6月10日

 

日本書紀や中国の歴史書などから日本の起源に迫った書籍。魏志倭人伝などは当時の政治的な意味を加味する必要があり、邪馬台国も誇張されている。倭王とは中国との窓口を勤めていた部族の長に与えられていた特権だった。百済が滅びて孤立したために、日本が日本としてのアイデンティティを確立せざるを得なかったというのが岡田氏の説である。そのときに中国語の方言を話していた先祖たちは、日本語を確立するために苦心した。

感銘を受けたのは、序説にある歴史の定義や役割だ。個人にアイデンティティや世界観を提供するものとして、宗教やイデオロギーとの機能的な差異について説明されている。宗教は現実との差異を認めずに原理主義に陥るので、歴史の方が優れているという見解が述べられていた。個人的には歴史も原理主義に陥ることがあるとも思うが、そもそも歴史が宗教などと比べられるものという認識がなかったので興味深かった。

岡田氏は専門分野の関係なのか中国から影響に偏っている気もするけど、中国についても書いているようなので読もう。