天涯の花

2000 集英社 宮尾 登美子

 

我々は、山に関わる森羅万象にすべて感謝し、呼び名には必ずさんをつけるばかりでなく、山にあるもの一木一草とも損傷してはいかん。
ええかね、空にはお陽いさん、月さん、星さん、お山さんでは花さん虫さん、お社さんは山頂に大剣さん、この地にお剣さん、稀に行き合う人があればお人さん、お気をつけなして、と挨拶する。
何に向かっても有り難う、と礼を述べる気持ちを忘れては一日もここにはおれんけんね。」

施設で育った珠子は15歳で、人里離れた剣山の神社で宮司を務める60すぎの国太郎夫妻の元に養子に行く。まっすぐに育った珠子は国太郎やその妻すぎを助けて生活をし、二十歳を迎え、将来へも思いをめぐらせる。

宮尾登美子さんのことは正直まったく知らなかったのだが、篤姫の原作にもなっているすごい人だった。この物語にはどっしりとした安定感があったが、人物像については食い足りない部分もあった。篤姫のドラマは見ていないが、小説は読んでもいいなぁと思った。

7つの言語 7つの世界

Bruce A. Tate オーム社 2011年7月23日

 

「本書では7つの異なる言語を紹介する。といっても、母親が毎日苦い薬を飲ませるようなやり方はしない。読者の皆さんに深い洞察を与え、プログラミングに対する見方が変わるような経験をしてもらうことが目的だ。」

筆者の調査で人気があった言語から、JavaScript, Pythonをはずした7言語 – Ruby, IO, Prolog, Scala, Erlang, Clojure, Haskellを解説する。コンパクトに要所をまとめた説明で、効率的に7つの言語の特徴を捉えられる解説書。

初めの方は興味津々で読んでいたが、途中の関数型言語くらいから、実用性が?になって徐々に初めの興味が失われていってしまった。IOの一部とか、Clojure, Haskellの途中は理解せずに読み飛ばしてしまった。また時が来たら読み直そう。

「皆さんのなかには、大規模なチームの商用プロジェクトにどっぷりとつかって、創造力を発揮することなどまったくなく、ソフトウェア工場の一員として働いてきた方もいるだろう。そのような世界では、新しいプログラム言語に触れる機会など著しく限られている。喩えてみれば、小さな町の映画館で、ひたすら大ヒットした映画だけをみている1970年代の映画好きのようなものだ。」

砂の女

1981 新潮社 安部 公房

 

人気の理由は薄くてさらっと読めるからだと思う。文章はわかりにくく、眼の前に情景が浮かんでこないようなところもあった。まあストーリーは置いておいて、結局、現代社会への風刺だと思う。今の生活だって不条理な徒労の中で、いくばくかの楽しみを見つけ出して、暮らしているんでしょ?けど、人間ってそれでどうにかできちゃう。作者の意図を裏返せば、人類の不条理な徒労に対する許容力の賛美とも解釈できる。

いたいけない中学生のときに阿部公房の「箱男」「他人の顔」とかを母親に紹介されて読んだのが、私のありようの根源だと思われる。

大いなる遺産 (上巻)

1951 新潮社 ディケンズ, 山西 英一

 

貧しい鍛冶屋のジョーに養われて育った少年ピップは、謎の人物から莫大な遺産を受けることになる。そしてロンドンに赴くことになるが・・・。

基本的な設定というかプロットはすばらしいけれども、なにしろ読みにくい。がんばって読んだという感じ。映画とかの方がおもしろいのかな。

アカペラ (新潮文庫)

山本 文緒 新潮社 2011年7月28日

 

山本文緒さんの復帰作。「アカペラ」は2001年作。その後、病気を患い休業。「ソリチュード」は2007年作。「ネロリ」は2008年作。3つの中篇小説。

素晴らしすぎる。以前、知り合いが以前に比べてイマイチとか言っていたので、控えていたのもあったけど、何言ってんだヴォケがぁ!それにしても、どうすれば、こんな気持ちよい文章をかけるのだろうか。あとがきも涙ぐんでしまったです。いや、ほんと、また小説を書いていただきありがとうございます。

知の技法―東京大学教養学部「基礎演習」テキスト

1994 東京大学出版会 小林 康夫, 船曳 建夫

 

東京大学教養学部文系1年必修科目「基礎演習」のサブ・テキストとして編集された本。制度化された領域を超えて、全ての「学」に共通する技術・作法としての「知の技法」を習得させる1つの試み。2,3年という短いスパンで使える教科書を目指したと書いてあった気がする。

不得意なところは飛ばして、ざっと読んだ。某所にあとがきが面白いと書いてあったので、もう一度よまないと駄目かもしれん。

Web開発者のための]大規模サービス技術入門 ―データ構造、メモリ、OS、DB、サーバ/インフラ (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

伊藤 直也, 田中 慎司 技術評論社 2010年7月7日

 

「筆者がはてなに入ったころは、どちらかというとはてなは理論よりも実践側に強い会社でした。強いというか、そこでやっていた。Webアプリケーション開発のセオリーをフレームワークにして、とにかく早く少ない工数でWebアプリケーションを作ることに長けてたし、またベンチャーの機動力を生かして新しいテクニックやオープンソースの実装をどんどん取り込んでいってその規模を拡大していきました。
しかし、サービスがヒットして一つ一つの問題が大きくなってくるにつれて、そのようなノウハウが通用しなくなってくる。つまり、課題が本質的になるにつれ、小手先のテクニックでは解決できなくなっていったわけです。そこで必要だったのは、新しい技術やノウハウではなく、ときに古典的だけれども本質的な理論だったというわけです。」

はてなのインターンシップの授業を元にした大規模なWebサービスの技術入門。OSやハードの視点からのパフォーマンスの考察、圧縮などのアルゴリズムなどの理論的な話から、実際に使用しているアプリ、サーバの構成、クラウドの使用まで、事細かにはてなの技術を紹介している。Webサービスになじみのない人にも読める良書。

少なくともWebサービスに疎い私にとってはいろいろは発見がある素晴らしい本だった。はじめはチームマネージメントなどの話から始まったため、どうなることかと心配になったが、読み進めるにつれて、実践的でかつ理論的でビジネス的な視点もある奥深い内容に驚いた。メモリリーク対策に仮想OSの自動再起動を使っているというのはビジネス的な視点も含めて、興味深かった。小さいサービスから始まり、試行錯誤で技術基盤を築いていっている姿勢には好感が持てた。
日本はソフトが弱い。その弱さが今のGoogleやAmazon、Facebook、Twitterにしてやられている状況を生んでいると思う。Googleすごい!じゃなくて、Googleの次は何か?を真剣に悩みたい。

Effective C++ 原著第3版

2006 ピアソン・エデュケーション スコット・メイヤーズ, 小林 健一郎

 

C++でプログラムを書く上での55のガイドライン。

かなり難解な分類に属する本で、読むのにかなりの時間を要した。内容はC++の奥の奥まで踏み込んでいて、知らなかったことに多く出会えた。今までまともにC++のプログラムを書いていた風に振舞っていた私はなんだったのだろうと思った。

また、その素晴らしい内容と対照的に、このような55あるガイドラインを守らないと普通に動かないC++言語の限界を感じた。やはりJavaなどに比べるとC++は成功した言語とはいえないと感じる。

悪について

1965 紀伊國屋書店 エーリッヒ・フロム, 鈴木 重吉

1965 紀伊國屋書店 エーリッヒ・フロム, 鈴木 重吉

 

「防衛という名をかりない侵略戦争は、ほとんど例がない。防衛を正しく主張した者は誰かという問題は、一般に勝者によって決められたり、またはずっと後になってはじめて客観的に歴史家が決定することもある。」

「復讐の動因は、集団または個人のもつその強さと生産性とに反比例する。無能な者や不具者は自尊心が傷つけられたり砕かれると、その回復の手段として頼れるものはただひとつしかない。つまり「眼には眼を」というたとえのように復讐することだけである。一方、生産的に生きている人にはそういう必要はほとんどない。たとえ傷つけられ、侮辱され、損害を与えられても、生産的に暮らしている過程そのものが過去の傷を忘れさせる。生み出す能力というもおは、復讐の欲求よりも強いことが分かる。」

フロムによるフロイトの理論をベースとした人間分析。決定論に飲まれるのが「悪」。その反対が「自由」。悪に退行・衰退していく過程を、ネクロフィリア、(集団の)ナルチシズム、近親相姦的強制という3つのオリエンテーションの視点から分析する。

個人的にはフロムの決定論からの脱却のための自由は支持するけれど、フロイトのボキャブラリーで語るのに限界があると思う。「ネクロフィラス」->物質主義・産業主義、「ナルチシズム」->集団が持つ主義への陶酔、「近親相姦的なきずな」->血族・種族・家族への結合欲。ちょっと無理やりすぎるんじゃないか?それにこの3つで説明しきれるの?まず肛門リビドーとか出てきた時点で、すんなり納得できなくなってくる。ともあれ、他の人道主義の方々もお勉強する予定。