戦場へ行こう!!雨宮処凛流・地球の歩き方

2004 講談社 雨宮 処凛

 

「理解不能な異形なものがあると徹底的に叩かないと気が済まないのは、自分の中のふれちゃいけない何かが脅かされるからだろうか。白装束を否定することで、彼らが守りたいものは何なのだろう。オウムを持ち出すまでもなく、ある種の物語の中にどっぷりと浸かって生きている人を目の前に突き付けられると、人は心の深い部分を脅かされるようだ。ちなみに私が心を動かされる理由は、どこかで自分も大きな物語の中で生きていたいという願望があるからだと思う。」

右とか左とかの外側にいる雨宮女史がつづる華麗な濃厚逆噴射人生のエッセイ。ブラウン管の向こう側で起こっている惨事にアグレッシブに参加していく。文章がうまく、ガサ入れ体験話は爆笑ものである。

彼女の行動を見る限り、ナウシカじゃないけど、人間は清浄な世界では生きていけないんじゃないか。雨宮さんの本はもっと読みたいなぁー。

自負と偏見

1997 新潮社 オースティン, 中野 好夫

 

「エリザベスの結婚観が、すべて自分の家の経験から推して、つくられたものだとすれば、結婚生活の幸福や家庭の楽しみについて、あまり愉快な想像をもてなかったのは当然であろう。父親というのは、若さと美貌と、それにたいてい若い美人がもっているに決まっている表面だけの朗らかさに惹かれて、結婚してしまったのだった。ところが、その妻は、知能も弱く、心もさもしいとあっては、ほんとうの愛情は、結婚するとまもなくさめてしまった。尊敬だの、敬意だの、信頼だのというものは、永久に消えて、彼が考えていたような家庭の幸福は、完全にくつがえされてしまった。だが、ただミスター・ベネットという人は、自分の無思慮からまねいた失望のかわりに、世上よくある例だが、己が不徳、己が愚かさから不幸に陥っておきながら、その慰めを、ほかのいろいろな快楽に求めるような、そんな性質の男ではなかった。彼は、もっぱら田園、そして本を愛した。そしてそういう趣味から、彼の主な楽しみは生まれていた。妻から受けているものといえば、彼女の無知と、そして愚かさが提供してくれる面白さというほかには、ほとんどなかった。」

イギリスの田舎町、五人姉妹のベネット家の隣に、青年紳士ビングリーが引越して来る。温和で美しい長女ジェーンと才気溢れる次女エリザベス、そして快活なビングリーとその親友で気難し屋のダーシー。ところが、エリザベスが高慢で鼻持ちならぬ男と考えていたダーシーが、実は誠実で賢明な紳士だと判った時…。二組の恋の行方と日常を鋭い観察眼とユーモアで見事に描写した名作。

↑コピー。モームの十大小説。大した事件も起こらないような恋愛物語ではあるが、いやはや面白かった。歯に衣着せぬ人物評には笑ってしまうし、長所と短所をあわせもった登場人物たちも魅力的で本当に生きているかのよう。ドップリと世界に浸れる。ダーシーかっこいい。エリザベスもたまらん。岩波はダメで河出がいいらしかったが新潮を読んだ。

日本史の誕生 (ちくま文庫 お 30-2)

岡田 英弘 筑摩書房 2008年6月10日

 

日本書紀や中国の歴史書などから日本の起源に迫った書籍。魏志倭人伝などは当時の政治的な意味を加味する必要があり、邪馬台国も誇張されている。倭王とは中国との窓口を勤めていた部族の長に与えられていた特権だった。百済が滅びて孤立したために、日本が日本としてのアイデンティティを確立せざるを得なかったというのが岡田氏の説である。そのときに中国語の方言を話していた先祖たちは、日本語を確立するために苦心した。

感銘を受けたのは、序説にある歴史の定義や役割だ。個人にアイデンティティや世界観を提供するものとして、宗教やイデオロギーとの機能的な差異について説明されている。宗教は現実との差異を認めずに原理主義に陥るので、歴史の方が優れているという見解が述べられていた。個人的には歴史も原理主義に陥ることがあるとも思うが、そもそも歴史が宗教などと比べられるものという認識がなかったので興味深かった。

岡田氏は専門分野の関係なのか中国から影響に偏っている気もするけど、中国についても書いているようなので読もう。

異邦人

1954 新潮社 カミュ, 窪田 啓作

 

母の死を悲しまず、翌日に浜辺であった女と関係を結び、太陽のせいと人を殺害する。虚無の世界に生きるムルソーを描いたカミュの代表作。

うーん。あんまり面白くなかった。

文明の衝突と21世紀の日本

2000 集英社 サミュエル・P. ハンチントン, Samuel P. Huntington, 鈴木 主税

 

冷戦後の世界のありようを描いた「文明の衝突」のダイジェスト版みたいな書籍。終わりかけた西欧の価値観は今まで栄えては衰退した数ある文化の中の一つでしかなく、今後は文化を軸とした多極的な世界になると。CGを使った直感的な図が掲げられているのが特徴。

いつだかに買ったのでいちおうサラっと読んでおいた。意外に日本が語られていない。日本は第二次世界大戦意外は歴史的に適切と思われる強国と同盟を保ってきたので、次は誰と同盟を結ぶか?が主要な問題だ。

『答えは明確になりつつある。「口に出して公言したり、了解を示してはいないが、まだ北京が国際的にかなり孤立していた1992年に、日本の天皇が中国を訪問したのは意義深いことだ」』

天皇の方が外交をしているのはどういうことよ?君主だから?政権はコロコロと変わるから、外交は天皇がした方がいいの?もしかして歴史的に天皇が外交をしていたから日本の政治は外交が弱いの?とか思った。

Googleを支える技術 ~巨大システムの内側の世界 [WEB+DB PRESS plusシリーズ] (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)

2008 技術評論社 西田 圭介

 

Googleの技術を論文を元に分かりやすく解説した本。サーチの概要から始まって、データ保護機能を実現した分散ストレージ、ハードを増やすことによりリニアに性能が上がっていく分散処理などの基盤技術を説明する。それに加えてハードの運用コスト、電力、HDDの特性などのレポート、さらに独自の開発文化、開発環境、有名な20%ルールなどを解説する。

分散技術はほとんど知らなかったが興味深く読めた。方法を変えていくことにより徐々に進化しているのには恐れ入った。また20%ルールは、他のことをやるように“求められてる”というのを知らなかった。開発文化、運用なども興味深い。とりあえずオリジナルのドキュメントも読まんとあかん。

こぼれる

酒井 若菜 春日出版 2008年6月

 

一つの物語を複数の人の視点から描いた群像劇。恋愛小説という括りではないと思う。“雫”を中心に交差する人間たちのドラマ。

司馬先生の本を読むと知って、にわかにファンになった。正直、始めの方の文体などは読みにくく感じたが、後半はすらすら読めた。なにげに技巧的で扱っているテーマも読みごたえがある。普通に面白かった。一つ一つの物語はハッピーとは言いがたいが、ポジティブなメッセージを発している。きっとそれは「夢を与えられなければ、テレビではない」と臆面もなく言いはなつ彼女のスタンスなのだろう。あとがきは特に好き。すっぴんで町を歩くというが、言葉もすっぴんである。次回作には謝辞を入れてほしい(^ ^

ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵

2001 日経BP社 トム・デマルコ, ティモシー・リスター, 松原 友夫, 山浦 恒央

 

ソフトウェア開発管理の名著。環境、退職の影響、チーム、プロセスなど様々なトピックについて、実際のエピソードを交えながら管理者の心構えについての書籍。

デマルコ氏の書籍は昔に一冊読んだことがあったが、これもリストにあったので読んでみた。CMMについて、批判的なのが印象的だった。やはり自尊心の問題は大きいと思った。

パラレルな世紀への跳躍

2007 集英社 太田 光

 

「人間は本当に皆、歳を重ねるにつれて大人になっていくのだろうか。私にはどうも、その逆に思えて仕方がない。我々は歳を重ねるにしたがって“無垢”に向かっていくのではないだろうか。」

太田光氏のエッセイ。話題は政治、戦争、妄想、回想、小説、芸人、芸能など多岐に渡る。切り口も面白く、自分と世界とのギャップや、理想論を当事者として率直に語る。

太田氏を特に好きということはなく、今までちゃんと見たこともなかったが、某女優さんが一番好きな本に挙げていたので読んでみた。すごい読書家ということで、文章もうまく羨ましい。全体を通して強い反戦主義を貫き、表題の「パラレル」の中には多様主義の匂いを感じた。その多様主義の源は、自分と周りとのギャップがあるのかもしれない。特筆すべきは、すべての問題に対して、自分が問題に責任ある立場として批評することなく意見している点だ。宇宙や戦争の問題はちょっと自分との認識の差を感じたところもあった。サリンジャーを好きなのも共感を持て、挙げられていた作家さんも読んでみようと思った。一番に好きな話は短編の天使のものかな。短編を読んでみたい。とにかく、笑ったり泪が出たり考えたり、こんなにゴチャゴチャなエッセイは初めて。たぶんテレビの中の太田氏を好きになることはないかもしれない。けれど、彼の書いたものは大好きになった。

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

1991 共立出版 G.M. ワインバーグ, 木村 泉, 木村$

 

ワインバーグ氏が問題解決型リーダーについてエピソードを交えて示唆的に語る。動機付け、組織化、アイデアの流れの制御、などにテーマを分類している。

コンピュータ関連のバイブルをあまりにも読んでいないことが露見したので、「コンピュータの名著・古典100冊」にあった本書を読んでみた。内容を一言で語るのは無理であるが、エピソードで暗示された方法論に学ぶところは多い。何度か折にふれて読み返した方がいいかもしれない。コミュニケーションの方法論で、自分の発言にいたるすべての感情の変化を説明するというものがあったが、これはいいかも、と思った。もちろんフィルターは必要だとは思うが。