「民族」で読み解く世界史 教養として知っておきたい

2018 日本実業出版社 宇山 卓栄

 民族という切り口が面白そうで手にとったが、世界全体を民族の切り口で語っていて非常に面白かった。

本の構成

 8部24章で構成されている。第一部「民族はこうして始まった」では民族は人種や国民とどう違いのか、大まかな語族による分類、インドヨーロッパ語族の「白人」のルーツについてを説明する。第二部「東アジアと日本」では中国の王朝と民族について、中華思想、日本と渡来人・白村江の戦いについて、朝鮮半島の王朝と民族について説明しています。第三部「世界を支配したヨーロッパの国々」ではローマ人の末裔のラテン人・ビザンツ帝国の流れをくむスラブ人・ヨーロッパを開墾したゲルマン人について、ノルマン人による王朝、北欧信仰について説明しています。第四部「インド・中東・中央アジア」ではインドに流入したモンゴル人とカースト制、イスラム勢力に倒れたイラン人の国、非アラブ人の国とベルベル人、西に移動していってハンガリー・ブルガリア・フィンランドまで達したトルコ人、三系統のユダヤ人とイスラエル建国を説明している。第五部「複雑に入り組む東南アジアの諸民族」では東アジアの語族たち、ベトナム人・タイ人・クメール人のインドシナ半島の三勢力と流入したミャンマー人、マレー人・ジャワ人の王国について説明している。第六部「アメリカ、アフリカ、民族に刻まれた侵略と対立の傷跡」ではラテンアメリカ人、アフリカの4語族と奴隷貿易、ワスプとブラックインディアンについて説明しています。第七部「大帝国の成立ー民族の融和」では4つのモンゴル人の国とモンゴル帝国の経済モデルと西走、満州人のビジネスモデルと清帝国の宥和政策と民族主義、オスマン帝国の民族融和政策と民族ナショナリズムによる分裂と列強による分割とクルド人について説明しています。第八部「民族の血糖が教える世界」では、主権国家と国民国家の違いとグローバリズムに対する反動、アメリカで発展した白人優位主義と排日思想や黄禍論について説明しています。

気になったポイント – バスク人の先祖

 バスク人はクロマニョン人の末裔という説は興味深かった。モンゴロイドは原人と混血していないというが、本当なのだろうか…。

気になったポイント – 民族の移動の関連性

 ゲルマン人の第一の移動でローマ帝国の侵食したが、その後にウマイヤ朝のヨーロッパへの侵攻に対抗するためにバラバラだったゲルマン人が統合されてフランク族のカール大帝の帝国ができた。第二のゲルマン人の移動はヴァイキングの活動で、ノルマン朝やルス族によるノブゴロイド朝(ロシア)と説明されている。ゲルマン人を押し出したフン族は謎だが、トルコ人がはじめに西に移動して、その後モンゴルアジアではチベット人の国の南詔から派生したミャンマー人の流入やタイに流入した雲南の中国系など。

 世界史には民族の移動が様々な結果を生み出しているのだろうけれども、素人には関連性がはっきりと理解できて面白かった。

気になったポイント – 各民族のビジネスモデル

 インド・ヨーロッパ語族が小アジア中東で起こしたヒッタイト王国での製鉄技術の独占で儲けた。突厥も製鉄で儲けて中国に侵食していく。東ローマ帝国は東方貿易で儲けるが、温暖化とゲルマン人の開墾により東方貿易が縮小し東ローマ帝国も縮小していく。ノルマン人は海上の交易ネットワークを形成し巨万の富の蓄積した。モンゴル人はシルクロードの交易を整備して通行料をとって儲けた。大航海時代でシルクロードの交易が下火になってくるとインドに下ってムガル帝国を作った。満州人はモンゴル、明王朝、朝鮮との互市貿易で儲けた。クメール人の扶南やインドシナ半島のシュリーヴィジャヤ王国はインドと中国の海上貿易で栄える。アユタヤ朝はポルトガルなど大航海時代の交易で儲ける。砂糖・綿花の価格低下したり奴隷を再生産して奴隷貿易がなくなった。

気になったポイント – 文化の吸収

 文化の面でも統治の観点もあったとは思うが、文化を吸収するということが起こっていた。中国文化についてはモンゴル人の北魏の婚姻の奨励、突厥の中華思想の推進、清の中華同化制作などが見られる一方で、モンゴルのフビライは漢字を国家の公用語と認めなかったりしている。

最後に

 ノルマン朝がイギリスとフランスの一部を領地にしていたというのは古代日本の状況と似ていて興味深かった。やはり海洋民族はそのような支配になるのではないか。日本の勉強のためにも世界史は面白い。

 かなり広範囲の世界史を扱っているわりにコンパクトで図解なども多く読みやすいです。世界史の流れや各民族のルーツなどを知りたい人にはおすすめです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です