文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨彰 (翻訳) 2012

 

この本もまた長いスパンで人類の歴史を知りたいと、手に取った。

ニューギニア政治家のヤリは聞いた「あなたがた白人は、たくさんのものを発展させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」

進化生物学者でカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部教授である著者は「世界の富や権力は、なぜ現在あるような形で分配されてしまったのか?」「南北アメリカ大陸の先住民、アフリカ大陸の人びと、そしてオーストラリア大陸のアボリジニが、ヨーロッパ系やアジア系の人びとを殺戮したり、征服したり、絶滅させるようなことが、なぜ起こらなかったのだろうか?」というシンプルで根源的な問いについて答えられないかった。そこで著者はこの謎について、1万3千年前に遡り大陸ごとの発展などを人類の進化、歴史、生物学、言語学などの豊富な知識を駆使して説き明かすことを試みる。ピューリッツア賞受賞を受賞した話題作。

 

プロテスタンティズムと資本主義の倫理が宗教の観点から現代世界のありようを説明したとすると、これは歴史と地理的な観点からそれを説明しているように感じた。本書では地理的な環境要因により、偶然にこのようになったと結論付けている。この結論は概ね納得できるが、著者も民族ごとの保守性について触れている箇所もあり、環境による要件ですべて理由付けするのは無理があると感じる。企業でいうと、「アップルの成功の原因はアメリカで起業したからです」と説明できるだろうか?たしかにバングラデシュにジョブズが生まれても今日の成功を勝ち取ることはできなかっただろう。ただアメリカという環境要因だけでは説明できないのは自明で、企業の性質や決定なども大きく影響している。他者を排除した性質については大勢に影響なし、とのことなのだろうか。また、動物・植物にも家畜化・栽培化できるできないという性質的な要因があり、それが今日の状況に影響している、とも著者が言っているので、それが人間に適用できなことの方が不思議だ。

さらに、富と権力が欧米に分配されているというのはちょっと違っているかもしれず、実はユダヤ人に分配されているのかもしれない。さらに欧米が技術的経済的に他の地域を圧倒しているのは、この数百年のことであって、次の数百年はどの民族が世界を圧倒するのかは分からない。時期によって世界の中心は違っていた。メッカが世界の中心であった時期もあったし、ローマが世界の中心であった時期もあった。ニューヨークがいつまで経済の中心であるかは分からない。

いずれにしろ著者が提示した命題は素晴らしいもので、読み物としてドラマチックで面白いのは間違いなので、一読はお勧めする。ただ、結論については一説として留めておくのが賢明だろう。

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