危機と人類 上・下

2019 日本経済新聞出版社 ジャレド・ダイアモンド(著), 小川敏子(訳), 川上純子(訳)

 ジャレド・ダイヤモンドは生理学者だがニューギニアでの滞在で人類の進化に興味を持ち研究をすすめ「銃・病原菌・鉄」などの著者として有名である。本書では筆者がよく知りよく滞在もする7つの国家の比較研究になっている。その7カ国のうち6カ国の言葉は話せたりもするという。日本語は話せない。

本の構成

 まずは、心理的療法士の個人的な危機の解決の成功率を上げる12の要因を元にして、国家的危機を分析するのに要因を12を設定している。大きくざっくり分けると、世論形成など「自国の現在の状況」、アイデンティティや経験など「自国の過去の歴史」、支援や地政学的な成約など「他国との関係」、他国を参考にするや危機を明確にするなど「危機対応への手法」などである。

 その手法をつかって、各国の危機とその後の対応を分析する。1939年からのソ連侵攻に進行されたフィンランドの危機、列強に侵されそうになった近代日本の危機、軍事政権による支配されたチリの危機、大量の虐殺を伴ったクーデターが起こったインドネシアの危機、敗戦し蹂躙され分割されたドイツの危機、第二次世界大戦後にイギリスとの関係が薄れていったオーストラリアの危機。その後は国家と世界ー進行中の危機を分析する。衰退していく日本の危機(涙)、アメリカの強みと政治の二極化とその他3つの問題(投票率の低下、社会の階層化とその固定化、公共投資の減少)による危機、その他の世界の危機(核兵器、気候変動、化石燃料などのエネルギー、格差)について語る。

気になったポイント ー 日本の分析

 日本は2度登場する。一度目は外国からの脅威に対して、明治維新によって50年ほどかけて選択的に日本を変化させてうまく対処した、という内容だった。後述する列強の支援による内戦が起こる可能性などはあったと別の書籍では読んだが、その部分には触れていない。二度目は現在進行系の問題で、日本には優位性があるものの、国債、男尊女卑、出生率、高齢者、移民政策、隣国、自然資源などの問題があると語る。

 2つ目の問題とされていることはよく語られていることだが、アメリカ人に言われると、自虐史観のような”自虐現状認識”とも感じた。自虐現状認識によりさらに悪い報告にむかっていくような再帰的な構造が生まれているような感覚を初めて感じた。こんなところで宣伝しないでほしい。
 国債が多いというのも例のMMTの貨幣の発行量の話なので関係ない。出生率は政府の失策。男尊女卑については基本そのとおりなので改善はしたいが、女性の社会進出と出生率は反比例するものだとは思う。高齢者は60越えたら全員寝たきりというわけではないので、高齢者数よりも高齢化率=出生率が問題なのだと思う。またそこまで制度が柔軟ではないのが問題ではあるが、年齢は相対的なものので元気であれば働けば良いという話しだとは思う。個人的にはとにかく格差を生む税制が問題で、それによって出生率も影響を受けていると思う。

最後に

 ジャレド氏の分析には賛否があることのを見るが、基本的には好きである。理由はその語り口かもしれない。氏の書籍は論文の寄せ集めや他の書籍からの研究ではなく、フィールドワークをベースとした生の声が集積されている。そのためか本書も各国家の文化の尊重の姿勢が見て取れる。

 とはいえ、12の要因という個人の基準を国家に適用するのは正しい選択なのか?というのは読んでいて感じた。国家の性質よりも近隣諸国や列強の影響の方が遥かに大きいからである。フィンランドはソ連のため、近代日本はアメリカその他の列強のため、チリもCIAの工作やアメリカの思惑が働いている。スハルト大統領へのアメリカの関与も明らかになっている。敗戦したドイツはそのまま列強による蹂躙を受けた。現在の日本の危機やアメリカの危機はどちらかというと国際金融資本による侵略という理解。いずれにしても脅威のパワーと自国のパワーの比率では脅威のパワーが強い気がしている。
 危機とは逆だが、自動車の安全規格ASILでは発生頻度、回避の可能性、重大度の3つの軸で危険を分類しているが、この中の「回避の可能性」は危険な事象のスピード・エネルギーと自分がコントロールできるスピード・エネルギーの比率によると思う。その観点で国家の危機を見ると、当たり前だけど、脅威のパワーと自国のパワーの比率が違いすぎると「回避の可能性」が減少していく。これは自国の経済力を上げていくことで比率を変えていく他ないような気がする。

 また日本の説明の中で、イギリスは3000年前の青銅器時代からブリテン島とヨーロッパ大陸の間では活発に交易が行われていた一方、「日本の貿易規模は非常に小さかった」とあった。これは本当かなぁとかねてから思っている点で勉強を進めたい。

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